スペランツァおばあちゃんの友達
III
伯父が来た、有徳の紳士、尊敬すべき人物、
過去と、ロンバルド―ヴェネト王国と、皇帝に忠実、
伯母が来た、伯父にふさわしい伴侶、とても善良で、
過去に忠実、サルデーニャ王を愛してはいるが...
《伯父さんたちの手に接吻を》とパパ、ママが言い、
なかなか言うことを聞かない子供に、赤らんだ顔を向ける。
《この娘は、お友達で休暇中です。ミス・カルロッタ
カペンナ。優秀な女子学生で、スペランツァの一番の仲良しです》。
《まあ...まあ...よろしい...よろしい...》ーー狡猾に、ゆっくりと、
尊敬すべき伯父は語ったーー《まあ...まあ...よろしい...
カペンナ? アルトゥーロ・カペンナという男がいたな。カペンナ...カペンナ...カペンナ..
確かに!ヴィーンの宮廷だ!確かに...確かに...確かに...
《モスカートを少しいかがかな?》《お前様も...》
静かに微笑みながら、すわり談笑した。
《...がブランビッラは無理だった...》ーー《エルナーニ》には太りすぎている...
《スカラ座にはもうソプラノ歌手がいませんね...》ーー《なんたる熱気でしょう、あのジュゼッペ..ヴェルディは》
《...3月には、フェニーチェ座で歌うと言っていたよ
新作の『リゴレット』だ。傑作という話だよ》。
《お洋服はブルーですの、それともグレー?》ーー《このイアリング?なんてきれいな
ルビーでしょう!このカメオ...》ーー《パリの最新流行は...》
《...ラデツキー将軍?とんでもない。休戦協定...平和、長続きする平和...》
《。。あの若いサルデーニャ王は、とても良識のある人だ!》
《たしかに、不眠不休、強く、用心深く、抜け目のない男...》
《ハンサムですか?》ーー《いいや、まったく》。――《とても女好きではあるが...》
《スペランツァ!》(少し身をかがめ、不明瞭な口調になる)
《カルロッタ!庭に行ってらっしゃい。バドミントンでもしてらっしゃい!》
そこで二人の友は落ち着いて、完璧なとても丁重な
お辞儀をして、とても善良な伯父伯母のもとを去る。
(訳者妄言)
ゴッツァーノの詩「スペランツァおばあちゃんの友達」の第三セクション。
パーティーの場に、社会的地位の高い伯父夫婦がやってくる。このセクションは、詩の舞台が1850年だということが、キーポイントである。
一つは、イタリアの統一がまだなっていない。伯父は、オーストリア皇帝を支持しているが、伯母は若きサルデーニャ王(のちに、初代イタリア国王となるヴィットリオ・エマヌエーレ2世のこと)を愛している。夫婦で、政治的立場が食い違っているのだ。ヴィスコンティの映画『夏の嵐』を想起するのは、訳者のみではあるまい。
16行目のブランビッラは、当時の有名なソプラノ歌手テレーザ・ブランビッラ(1813−1895)。この詩でも話題に登っているヴェネツィアのフェニーチェ座での『リゴレット』の初演でジルダを歌った。1851年3月11日のことであった。(この詩は、1850年6月28日に撮った写真が舞台となっている)。
ヴェルディは現在では知らぬものもない大作曲家であるが、1850年当時は新々気鋭の作曲家ということで、「ジュゼッペ...ヴェルディ」(原文では、Verdi...Giuseppe) と、思い出すための間があくのである。
ラデツキー将軍は、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでおなじみの「ラデツキー行進曲」のラデツキーだが、北イタリアのロンバルド=ヴェネト王国は、オーストリアの支配下にあった。1848年の3月革命に際しては、ミラノで市民の蜂起があり、5日間の市街戦の後、オーストリア軍総司令官ラデツキーは追放され、、革命仮政府が樹立される。ところが、教皇ピオ9世や両シチリア王が対オーストリアから脱落し、イタリア側はサルデーニャ王カルロ=アルベルトが孤立してしまう。1849年3月のノヴァーラノの決戦でサルデーニャ王国は破れ、休戦協定を結ぶ。第一次独立戦争の終焉である。
ノヴァーラの決戦でオーストリア側を率いたのがラデツキーであり、敗北したカルロ・アルベルト王は退位してその位を息子ヴィットリオ・エマヌエーレに譲った。休戦協定は、ヴィットリオ・エマヌエーレ2世とラデツキー将軍の間で結ばれたのである。ラデツキー将軍は、1849−57年ロンバルド=ヴェネト王国の総督となる。
ヴィットリオ・エマヌエーレが女好きだという話題が出たところで、良家のお嬢様がたは席をはずすよう促される。二人もそれに従順に従う。それが当時の、習わしであった。
伯父、伯母のもったいぶった様子を軽いアイロニーをもって描くため、ことさらに同じフレーズが繰り返されている。
モスカート(moscato)は、アスティ地方名産の甘口のワイン。
原文は、
Giungeva lo Zio, signore virtuoso, di molto riguardo,
ligio al passato, al Lombardo-Veneto, all'Imperatore;
giungeva la Zia ben degna consorte, molto dabbene,
ligia al passato, sebbene amante del Re di Sardegna...
"Baciate la mano alli Zii!" dicevano il Babbo e la Mamma,
e alzavano il volto di fiamma ai piccolini restii.
"E questa e' l'amica in vacanza: madamigella Carlotta
Capenna: l'alunna piu' dotta, l'amica piu' cara a Speranza."
"Ma benee...ma bene...ma bene..." diceva gesuitico e tardo
lo Zio di molto riguardo "...ma bene...ma bene...ma bene...
Capenna? Conobbi un Arturo Capenna...Capenna...Capenna...
Sicuro! alla Corte di Vienna! Sicuro...sicuro...sicuro..."
"Grandiscono un po' di moscato?"--"Signora sorella magari..."
E con sorriso pacato sedevano in bei conversari.
"ma la Brambilla non seppe..."--"E' pingue gia' per l'Ernani..."
"La Scala non ha piu' soprani..."--"Che vene queel Verdi...Giuseppe..."
"...nel Marzo avremo un lavoro alla Fenice, m'han detto,
nuovissimo: il Rigoletto. Si parla d'un capolavoro."
"...Azzurri si portano o grigi?"--"E questi orecchini? Che bei
rubini! E questi cammei..."--"la gran novita' di Parigi..."
"...Radetzky? Ma che? L'armistizio...la pace, la pace che regna..."
"...quel giovine Re di Sardegna e' uomo di molto giudizio!"
"E' certo uno spirito insonne, e forte e vigile e scaltro..."
"E' bello?"--"non bello: tutto'altro."--"Gli piacciono molto le donne..."
"Speranza!" (chinavansi piano, in tono un po' sibillino)
"Carlotta! Scendete in giardino: andate a giocare al volano."
Allora le amiche serene lasciavano con un perfetto
inchino di molto rispetto gli Zii molto dabbene.
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