夜のジャスミン
夜の花が開く、
私がいとしい人たちのことを想う頃に。
蛾がガマズミの間に
あらわれた。
しばらく前から叫び声が止んだ、
一軒ぽつんとある家はつぶやいている。
翼の下で、巣が眠っている、
目蓋の下で、眼が眠るように。
開いた萼から、赤いイチゴの
匂いが立ちのぼる。
部屋には灯りが輝く。
墓には草が生える。
遅くきた蜜蜂が、蜜房が
すでにふさがっているのを見てつぶやく。
スバル座が空の麦打ち場を
星々のピーピーいう鳴き声とともに横切る。
一晩中、風とともに
過ぎる匂いが立ちのぼる。
灯りが階段を上る、
二階が明るくなる、消えた...
夜明けだ。花びらが閉じる
少ししわがよって。柔らかく
秘密の房のなかに抱かれているのは、
どんな新たな幸せなのだろう。
(訳者妄言)
ジョヴァンニ・パスコリの詩。1901年に、パスコリの親友ガブリエーレ・ブリガンティの結婚を祝して出版された。後に、 詩集Canti di Castelvecchio に収められた。自然の出来事と、新婚の初夜の出来事が重ね合わされている。
パスコリは、しばしば、こうして、自然界に生じることと、人間界に生じることを並行して描く。人間が自然の一部であるように感じられるし、逆に、自然界のことがより身近に思える仕組みとなっている。
第一連、パスコリは夜になると、いとしい死者たちに想いを寄せていると告白している。
第二連の「叫び声」は、人々が活動している昼間の叫び声ともとれるし、鳥の鳴き声ともとれる。
第三連は、夜になって、ジャスミンの花が開き、匂いが立ちのぼる。部屋に灯りがともり、墓場に草が生えるというのは、不思議な描写だが、昼間には昼間の活動があり、夜には夜独自の生き物や人間の活動があるということだろう。
第四連の「スバル座」は La Chioccetta で、プレイアデス(アトラスの7人の娘)のことを農民はこう呼ぶのだとパスコリ自身が後に説明している。
第五連で、花嫁と花婿は一階の居間から二階の寝室へ移動する。
第六連では、花の受粉が、花嫁の受胎と重ね合わされている。繊細なエロティシズムである。
原文は、
E s'aprono i fiori notturni,
nell'ora che penso a'miei cari.
Sono apparse in mezzo ai viburni
le farfalle crepuscolari.
Da un pezzo si tacquero i gridi:
là sola una casa bisbiglia.
Sotto l'ali dormono i nidi,
come gli occhi sotto le ciglia.
Dai calici apeerti si esala
l'odore di fragole rosse,
Splende un lume là nella sala.
Nasce l'erba sopra le fosse.
Un'ape tardiva sussurra
trovando già prese le celle.
La Chioccetta per l'aria azzurra
va col suo pigolìo di stelle.
Per tutta la notte s'esala
l'odore che passa col vento.
Passa il lume su per la scala;
brilla al primo piano: s'è spento...
È l'alba: si chiudono i petali
un poco gualciti; si cova,
dentro l'urna molle e segreta,
non so che felicità nuova.
花が開くという視覚的な情報、夜になって、蛾が飛び回るという動き、そして叫び声やつぶやきという音が描写される。第三連からは、それに匂いが加わる。明らかに官能的な領域に入っている。夜に、草が生長するというのも、どこか生々しい感覚である。
そして灯りの移動と消灯。闇が訪れて、夜が明けると、その間に神秘的に生命がはらまれているのである。
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