二期会《運命の力》
ヴェルディの《運命の力》を観た(初台、新国立劇場)
二期会の公演で配役は
- カラトラーヴァ侯爵/グァルディアーノ神父:後藤春馬
- レオノーラ:イ・スンジェ
- ドン・カルロ:小林啓倫
- ドン・アルヴァーロ:大原啓楼
- プレツィオジッラ/クッラ:花房英里子
- フラ・メリトーネ:室岡大起
- 村長(Un Alcade):鹿野由之
指揮は八嶋恵里奈で東京フィルハーモニー交響楽団。八嶋(敬称略、以下同様)の指揮は、単にきびきびとしているだけでなく、歌手がたっぷりと歌いところは歌わせ、要所要所でレク—ペロ(テンポを元に戻す)しているのでだれない。また、このオペラは激情がほとばしる瞬間がままある激しいオペラだが、そういう場面ではアッチェレランド(テンポをあげていく)する。これはオーケストラや合唱にとっては、それについていくのが厳しいところもあるかと想像するが、オケも合唱も実に立派に応じていた。演奏者にとっては無理難題の面があるかもしれないが、これはそもそもストーリーが常軌を逸しているので、その激情を表現するにはアッチェレランドが必要、適切である場面がある。そこを果敢に攻めた指揮をしていた若きマエストラを称賛したいし、それに応じたオーケストラ、合唱、そして独唱者たちを褒め称えたい。
それでこそ、音楽劇として弛緩しない、だれないのである。むろん、テンポの遅めなところでの叙情的な聴かせどころはいくらでもある。そういうところでは、先述の激情的な場面とのコントラストが生きてくる。
歌手陣では、まずドン・カルロの小林啓倫がとても安定しており、作品全体を引き締める存在だった。声の充実に加え、ヴェルディらしい力強さと端正さのバランスがよく、今回もっとも印象に残った歌手の一人である。
ドン・アルヴァーロの小原啓楼も概して好演で、役に対する真摯な取り組みが伝わってきた。感情を丁寧に表現しようとするあまり、ところどころテンポがやや緩やかに感じられる場面もあったが、全体としては十分に説得力のある歌唱だった。
レオノーラのイ・スンジェは、比較的明るく軽やかな声質をもつ歌手であり、その美点が生きる箇所も多かった。一方、この役にはかなり劇的な厚みを求められる部分もあるため、強い表現の場面ではやや力んで歌っているように感じられることもあった。もう少し声の自然な持ち味を生かした表現になれば、さらに魅力が増すように思う。また、イタリア語の発音がより明晰になると、言葉の表情がいっそう伝わりやすくなるだろう。
プレツィオジッラも役の華やかさをよく表現しており、舞台に活気を与えていた。
メリトーネもユーモラスな場面を、歌の様式感が崩れないぎりぎりのところで、十二分に表情豊かに歌っていた。
グァルディアーノ神父の後藤春馬は、落ち着いた歌唱で役を堅実にまとめていた。特に個性的なタイプの歌唱ではなかったが、作品の宗教的な場面に安定感を与えていたと思う。
演出は、パウントニーのもので、大きな扉に十字架の形の出入り口と普通の出入り口があるその壁が本の1ページのようになっており、それをめくると別の場面になる。レオノーラが出てくる最初の場面でのベッドが病院のベッドのように見えてしまうのが不思議だったが、あとはそれほど気にならなかった。一つ特徴的なのは、運命の女神を思わせるモック役が度々出てくることだ。運命をこのように可視化するのは一つの手ではあるが、好みは分かれるだろう。
全体としては非常にレベルの高い上演だったと思う。


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