« 《黄金の林檎》その2 | トップページ | 《黄金の林檎》歌手その他 »

2026年8月 9日 (日)

《黄金の林檎》演出

昨日、チェスティ作曲のオペラ《黄金の林檎》の2日目(初演の時から2日間で上演されていた)を観たので、演出について書く。

インスブルック古楽音楽祭では、上演の一時間前に演出家や舞台装置、指揮者などの解説が入るのだが、昨日は、舞台衣装と舞台装置の人が話した。舞台衣装はイタリア人で、英語で話したので内容が理解できたのだが(ドイツ語圏の人がスピーカーだと通訳が入らない)、面白かったのは、衣装を作る上でファンタジーに制約はかけられなかったが、一番基本になるのはリブレットをじっくり読むことだという言葉だった。演出家との調整でもお互いにピンとくる言葉があると、そこから開けていくということだった。また、衣装に関しては、プロローグで世界各国のミス・イタリアやらミス・ポルトガルやらが出てくるのだが、ミスなのだが、明らかに男性が3分の1くらいいる。背の高い人もいて、彼ら用のハイヒールを探すのは大変だったとのことだった。また、出演者全員のチャットがあって、何か問題があると、全員でわーわー言って解決するということがよくある、つまりチームワークが機能しているとのこと。
今回の演出は、ファビオ・チェレーザという人で、この人は演出家であると同時にリブレッティスタでもあって、つまりオペラ台本作者でもある。また、17世紀のオペラと18世紀のオペラでは演出を変えるべきだと考えており、それは17世紀のオペラではレチタティーヴォとアリアの区別が18世紀オペラほどくっきりしていないので、17世紀オペラでは一つの連続したドラマとして演出として考えるということだ。

視覚的に判りやすい今回の演出の特徴は、神々(ジョーヴェでもジュノーネでもヴェーネレでも)は、神々らしいバロック的豪華な衣装をまとっているが、パリデ(パリス)やエンノーネといった世俗の人間は思いきって現代服を着せている。例えば、パリデが審判役に選ばれて旅に出かける際は白いスーツを着て、スーツケースを転がすといった具合だ。ネットゥーノ(ネプチューン)は三つ叉の矛を持ち、衣装も神々らしいのだが、ある登場シーンではサーフボードに乗り、大勢の人が寝そべって作る波の上を滑って登場するなど、ところどころに笑いのツボがあるのだが、やり過ぎないところが好ましい。世俗の王の中には、赤い野球帽をかぶり、手のひらを身体の前で並行移動させる現アメリカ大統領を想起させるジェスチャーが笑いを取っていた(このくすぐりには続きもあるが、あえて省略)。女神たちは、華やかな衣装で、ただしチャイナドレス風に脚はちらりとみえるお色気はある。しかし女性歌手がリブレット上の必然性なく裸体になるなどといったことはなく、節度のあるくすぐりやお色気で、観ていて飽きないし、過剰演出に憤慨することもなく大いに楽しめた。
舞台転換はもともとのリブレットの段階で多いのだが、今回も実に多かった。舞台の上に、エンノーネの部屋がせりあがってきたり、またその部屋が沈み込んでいったりといった転換もあった。また、神々はしばしば雲に覆われて舞台上方から登場するが、アモーレやメルクリオは、雲の覆い無しで、歌手がピアノ線?で宙づりになって降りてきたり昇っていくので、その状態で歌う歌手が驚異そのものだった。
黄金の林檎というのは、前に書いたが、ディスコルディア(不和)の女神が、一番美しい女神へ、という指示をすることにより女神同士の争いを引き起こすわけだが、最終的にはジョーヴェ(ジュピター)が、3人の女神の長所を全て兼ね備えたマルガリータ(レオポルト1世の妃)に差し上げようというところで終わるはず。ただし今回の演出ではそこには変更が加えられている。
その変更には賛否あろうが、そこを観ると、途中でアメリカ大統領を想起させる人物が出てきたことにも納得がいく仕掛けとなっている。

ぼく個人としては、上演頻度が高いものに関しては、多くの観客にとってストーリが既知なので大胆な読み替え演出も面白い場合があると思うけれど、めったに上演しない演目は、まずリブレットに何が書いてあるのかがわかる(今回のように服装が現代化する程度は可)ことが好ましいと思っている。実際、今回は演出家も衣装係もイタリア人であるせいか、リブレットを重視した演出、衣装で大いに納得がいき、満足感も高かった。言うまでもなく、チェスティの17世紀の超大作が復活上演されること自体、画期的なことであるのだが、歌手、オケ、指揮の充実の上に、実にチャーミングで適切な演出があったのは喜ばしい。

|

« 《黄金の林檎》その2 | トップページ | 《黄金の林檎》歌手その他 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 《黄金の林檎》その2 | トップページ | 《黄金の林檎》歌手その他 »