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2025年8月17日 (日)

『魅せられた森』

『魅せられた森』という名のコンサートを聴いた(インスブルック、王宮大広間)。

王宮の大広間 (Riesensaal)では、インスブルックの音楽祭で毎年コンサートが行われている。この大広間は天上が高く、壁面にはハプスブルク家の歴代の君主や王女らの等身大以上の肖像画があり、入り口の反対側(突き当たり)にはマリア・テレジア、夫君フランツ、その子息ヨーゼフ2世の肖像ががあり、特別な空間である。

ただし、音響的には、残響時間が長く、毎年奏者は最初の何曲かは響きの過剰さの調整に苦労しているように見受けられる。特に、チェロやコントラバスはボワン、ボワンと響き、コントロールが難しそうだ。歌手は歌手で、子音が聞き取りにくい。前の音が消え去る前に次の音を出すわけなので、こういう場合にはより子音を強調しなければならないだろう。

「魅せられた森」即ち、魔法にかけられた森、というのはタッソの叙事詩『解放されたエルサレム』の12,13巻から来ている。バロック・オペラにはタッソのこの作品のエピソードをもとにした台本が多くある。当夜のコンサートは、様々な作曲家の自然を歌ったアリアを集めたものだった。

演奏はオーケストラが Julie Chauvin 率いる Le Concert de la Loge. インスブルックではここ数年続けてコンサートを開催している。独唱者がソプラノの Ana Vieira Leite. ポルトガルの若手ソプラノで、伸びのある綺麗な声だが、前述のように会場の特性上、もう少し子音が欲しいところであった。会場が変わればこの不満は解消されるのかもしれないが、会場に合わせて歌う必要もあるだろう。もう一人の独唱者は、メゾ・ソプラノの Eva Zaicik 。フランスのメゾで、バロックからロマン派まで幅広いレパートリーを持っている。安定した歌唱を聴かせた。曲によっては、もう少しはらはらする表情を聴かせてもよいのではと思ったが、そういう曲ではオケが十分にハラハラさせる要素を聴かせているので、大きな不満はなかった。

プログラムは、冒頭が Francesco Geminiani (1687-1762)の《魅せられた森》からという器楽曲だったが、これには説明が必要だろう。この曲はもともとフランスでテュイルリー宮でパントマイムを上演する際の音楽(この当時のフランスのパントマイムはバレエを伴うことが多く、台詞や合唱もつくこともあったのだが、このジェミニアーニ作品がどうであったかは不明)を五幕ものとして書いた。しかしこの作品は失敗に終わった。後にジェミニアーニがコンサート作品として書き直したものが当夜演奏された。楽譜はこちらのコンサート作品(コンチェルト・グロッソ)の方しか残存していないのである。

ヘンデルの《パルテノペ》から 'Qual farfalletta'

ヘンデルの《テオドーラ》から 'Thither let our hearts aspire'  ここで判るように、ヘンデルは歌詞がイタリア語のものと英語のものがそれぞれ複数演奏された。

ポルポラの《アグリッピーナ》から 'Mormorando anch'il ruschello'

 再びジェミニアーニのコンチェルト・グロッソの一部。

ヘンデルの《オルランド》から 'Verdi piante, erbette liete'

ヘンデルの Occasional Oratorio から 'After long storms and tempests overblown'

ここで休憩

後半はヘンデルの《イメネオ》から ’Sorge nell'anima mia' これは伴奏のオケが嵐のようにすさまじく、またすさまじい早さで演奏された。

ヴィヴァルディから三曲。

まず《テルモドンテ川のエルコレ》から 'Zeffiretti che sussurate'. これは川のせせらぎを半ば描写した可憐な曲なのだが、演奏に一工夫あった。メゾが歌っているのだが、姿が見えないソプラノがエコーの役割でフレーズの終わりを繰り返す場面がある。ソプラノは大広間の出口付近に隠れて歌っていたのだ。そしてその反対側には2人のフルート奏者がいて、川のせせらぎを表していた。こういった一工夫で、演劇性がぐっと増すし、観客の拍手は一層大きくなるのだった。

次は《ポントの女王アルシルダ》から 'Io son quel gelsomino' でこれは古典歌曲集にもはいっている馴染みの曲。

三曲目は、『四季』の春だった。観客の多くが1楽章で拍手をしたのはご愛敬。四季はオーストリアではさほど有名でないのか。

ヘンデルの《テオドーラ》から 'As with rosy steps the morn'

ヘンデルの《アミンタとフィッリデ》から二重唱 ’Per abbatter il rigore d'un crudel'.

大拍手につつまれてアンコール1曲。

2時間強の充実したコンサートであった。

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