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2025年8月12日 (火)

Scarlatti!

Scarlatti! と題するコンサートを聴いた(インスブルック、Haus der Musik).

Haus der Musik は州立劇場の隣にある黒い建物である。Scarlatti というのはアレッサンドロ・スカルラッティ(1660−1725)のことで、今年は没後300年の記念年なのだ。演奏はオッタヴィオ・ダントーネ指揮のアッカデーミア・ビザンティーナと、4人の歌手。ソプラノの Carlotta Colombo, カウンターテナーのPaul-Antoine Benos-Djian (Benos のeにアクセント記号)、テノールの Ziga Copi(ZとCにアクセント、ジーガ・ツォピと発音するらしい)、バリトンのMarco Saccardin.

インスブルック古楽音楽祭のオペラや演奏会では、開演の一時間前に20-30分程度のレクチャーがある。司会者はたいてい同じChristian Moritz-Bauer で、彼はドイツ語も英語もイタリア語も出来るのだが、演奏者や演出家がドイツ語に堪能だとドイツ語だけで話が進行してしまいついていけない。今回はダントーネと歌手も2人イタリア人なのでイタリア語か英語で進行することを期待してレクチャーを聴いた。レクチャーはMoritz-Bauerの司会で彼の説明はドイツ語、演奏者のゲストは3人で指揮のダントーネとソプラノのコロンボとテノールのツォピ。3人は英語で話した。レクチャーというかイントロダクションの内容で興味深かった点をいくつか挙げる。ダントーネの話だが、A.スカルラッティはナポリ派の創始者の一人とされ、オペラの他、700曲のカンタータや宗教曲を書いている。だから当夜のコンサートは器楽曲(コンチェルト・グロッソ)が冒頭とおしまいから二番目にあって、前半はコンチェルト・グロッソのあと《ディアナとエンディミオーネ》というギリシア・ローマ神話にもとづくカンタータ、そこで休憩、後半はオペラ・ブッファの抜粋をいくつか(これが大変に面白く、かつ優れた演奏であった)で、再びコンチェルト・グロッソ、最後が宗教曲の Salve Regina (オケ+4人の独唱者)だった。一夜のコンサートではあるが、A.スカルラッティの活動の幅広さがうかがえるように巧みに構成されていることに感心した。

ダントーネによれば、A.スカルラッティの曲は少数者のための音楽と言われることもある。そして非常に上手に演奏されると素晴らしさが伝わるが、下手な演奏ではそれが伝わらない、と。これはオペラ・セリアや宗教曲についてはうなずけるところだ。しかし、後半のオペラ・ブッファの抜粋では良い意味でその予想が見事に裏切られた。会場の聴衆から何度も笑いが漏れるほどおかしいのだ。台本レベルで滑稽なシチュエーションであるのだが、それを演じる歌手2人(ツォピとサッカルディン)も抜群にうまかった。声の演技(ツォピは22歳の若者なのだが、色気にみちた老婆を演じているのだ)も掛け合いの妙もリズム感もこちらがのれるのである。だからわっと笑いが起こる。それでいて、オケの伴奏は品の良いすました感じなのが逆に効果をあげていた。コンチェルト・グロッソは、リズムやメロディーにアクセントをつけ、作曲家の工夫が見える演奏であった。

前半の《ディアナとエンディミオーネ》はまた別の面白さで、ディアナは堅物で、今時の言葉で言えばツンデレなのである。自分の心は石で出来ていると自ら言うくらいで、エンディミオーネの愛情にびくともしない(最後の最後は別)。エンディミオーネの気持ちはなかなか苦悩に満ちているわけだが、その苦しい心は、レチタティーヴォでもアリアやアリオーソでも悩ましい転調、半音階で表現されており、さりげない一節が実際に歌うとさぞ難しいのであろうと思われた。いわゆるアジリタの派手な困難さとは違うのである。

器楽曲、カンタータ(セレナータ)、オペラ・ブッファ(opera drammatica と本人は呼んでいる)、宗教曲と実に多様なジャンルを味わうことが出来た。しかも別の観点から言えば、声楽つきの曲と器楽曲を味わっていて、声楽曲の性格が大きく異なっているわけだ。

テノールのツォピはオペラ・ブッファではお婆さんの声なのでわざと裏声、しゃがれた声を出していたが、Salve Reginaはまっとうにベルカントで歌っていて、それが大変だろうとダントーネも言っていた。

時間は休憩をいれて2時間であったが実に充実し、満足度の高い演奏会であった。A.スカルラッティは言うまでもなく、イタリアの偉大な作曲家であり、バッハ、ヘンデルなみに演奏機会が増えたとしても不思議はないと思う。今回のブッファなどもし全曲の楽譜があるなら全曲の上演をぜひとも観てみたいと思った。ブッファと言えば、金持ち・権力のある老人と若い娘の掛け合いがよくあるが、今回のは3つの場面が、みな老女と若い男の掛け合いなのであった。こういうブッファも楽しそうではないですか。

と思って調べてみると IMSLP にある。というわけで当夜演奏された3つの場面を紹介する。

1.オペラ《L'Emireno overo il consiglio dell'ombra》の第一幕16,17場 Niceta と Morasso のかけあい。

2.オペラ《Il prigioniero fortunato》の第二幕第3場 Lucilla と Delbo のかけあい。

3.オペラ《La donna ancora e' fedele》の 第一幕4場と7場 Filandra と Selivino のかけあい。

それぞれレチタティーヴォでのやりとりと、アリアや二重唱が交錯している。

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