『ピランデッロ戯曲集 III』
『ピランデッロ戯曲集 III』斎藤泰弘編訳(水声社)を読んだ。おさめられた作品は、「どうしてそうなったのか分からない」と「山の巨人たち」で晩年の作品と遺作である。
「どうしてそうなったのか分からない」(1935年)は、これまで日本では紹介されなかった作という。ピランデッロの作品に共通することだが、登場人物たちの関係は、世俗的で、複数の夫婦が出てくるが、配偶者でない異性との間に微妙な感情を抱いている気配があり、しかしそこにある登場人物の狂気が絡んでいる。主人公は、幸せそうな生活を送っていたのだが、自分でも思ってもみない行動を起こし、意識が戻ってその責任をどう負うかで錯乱してしまったのだ。錯乱に、嫉妬が絡み、前衛的な部分はあるのだが、ゴシップ的興味にひきずられながら読むことも十分可能だ。
「山の巨人たち」は未完の遺作だが、山の巨人たちファシスト政権を示唆するものとなっており風刺的要素が強い。第三幕が未完で、ここでは作者の息子ステファノ・ピランデッロが父から聞いた構想を記したものが記されているが、それとは少し異なるバージョンがジャーナリストのエンリーコ・ローマにより報告されており、それは本書にぬかりなく収められている。さらに、作品中で劇団の人々が一部を演じるオペラのリブレット「取り替えられた子供の話」も訳出されている。解説でもあらすじを含め訳者の解釈が開陳されており、読者は自分の読みを導いてもらえるし、あるいは自分の解釈とつきあわせることが出来る。
ともすれば難解というイメージで語られることが多いピランデッロだが、この2作を読むと、読み応えはあるが決して難解ではなく、ゴシップ的な関心を持ってぐいぐいと引き込まれる作品でもあることがわかるだろう。
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