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2024年9月11日 (水)

ヴィヴァルディ《オルランド・フリオーソ》その3(演奏評)

今回のバイロイトの辺境伯劇場での公演について。

前々項で記したように、オケはイル・ポモドーロ。今回のメンバーは20数人だった(歌手のソロコンサートなどでは数人の編成であることが多い。それはイル・ポモドーロに限ったことではないが)。

指揮は、フランチェスコ・コルティ。当夜、筆者の席は桟敷の一番低い階(日本風に言えば2階)で最も舞台に近い席だったので、オケおよび指揮と舞台が見通せた。観客席から見て舞台の左端が隠れてしまう。コルティは、オケも歌手もぐいぐい引っ張っていくタイプで、そのためアリアの途中でテンポがダレることは皆無なのだが、アルチーナ(ジュゼッピーナ・ブリデッリ)やアンジェリカ(アリアンナ・ヴェンディテッリ)が男を手玉に取って二股をする場面などでは、多少、テンポに自由があってもと思わないではなかった。

序曲などは衝撃的な速さであったが、これは、オルランドの被る運命の苛烈さを思えば相応しいテンポの選択かもしれないし、イル・ポモドーロだからこのテンポで音楽的に柔軟さを保って演奏できるのだとも思う。

歌手人はカウンタテナー(オルランドのミネンコ、ルッジェーロのティム・ミード)、上記のブリデッリ、ヴェンディテッリ、ブラダマンテのソーニャ・ルニェ、バスのホセ・コカ・ロサに至るまで、アジリタが綺麗で、コルティのテンポでも様式感が崩れないのは立派だった。

タイトル役のミネンコは音域も上から下まで、表出すべき感情も嫉妬、愛情から正気を失う状態までこの上ない広がりをダイナミックに、低声部では地声も混ぜて巧みに表現していた。

アンジェリカのヴェンディテッリおよびティム・ミードも見事なカント・バロッコで素晴らしい。

ヴィヴァルディのオペラが音楽的に充実しているのは第一幕、第二幕でこれは文句なく素晴らしいのだが、第三幕はややレチタティーヴォに頼って相対的に弱い面がある。もしかすると、楽譜の残存状況が第一幕、第二幕とは異なるのだろうか。

演出は舞台装置はかなり簡素で、現代の椅子がいくつか並べられたりする。ただし、衣装がよく出来ていて、人物の識別がしやすかった。衣装は現代服ではないが、かといって18世紀風でもない。第二幕では、メドーロとアンジェリカが木々に自分たちの名前を刻むところでは、文字が舞台に投影されそれが移動するという工夫を見せていた。木に刻んでも、客席からはほぼ見えないので何らかの工夫が必要なところだ。オルランドの狂乱の場は、像を倒したりという場面があるはずなのだが、そこはオルランドは舞台を彷徨う形に変形されていた。

このプロダクションはフェッラーラのテアトロ・コムナーレとモデナのパヴァロッティ劇場との共同制作なので、ひょっとすると劇場の装置で使用可能なものが、辺境伯劇場と前記2劇場では演出の細部は異なっているのかもしれない。そちらは見ていないので何とも言えないが。

ともあれ、ヴィヴァルディの音楽の悦びに満ち溢れた一夜であった。感謝。

 

 

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