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2024年9月 7日 (土)

ブルーノ・デ・サのリサイタル

ブルーノ・デ・サのリサイタルを聴いた(バイロイト、辺境伯劇場)。

このリサイタルはオルリンスキーのリサイタルが予定されていたのだが、彼の体調が悪くなり、急遽ブルーノ・デ・サに変更となったものなのだが、結論から言えば、大変素晴らしいもので、ブルーノ・デ・サの成長を感じるものだった。

オケはイル・ポモドーロ。音楽祭では、フルメンバーではないことが多いが、今回はヴァイオリンが Alfia Bakievaで、身体をリズミカルに動かしつつ生き生きとした音楽をする人で、チェロのミナージが通奏低音部の核となっていた。ミナージのチェロは、淡々とリズムを刻んでいることもあれば、朗々と渡された旋律を歌いあげることもあれば、爆発的エネルギーをもって低音部を強調することもあるし、早いパッセージもどこまででもテンポを上げられるといった具合で、超絶技巧が極めて音楽的な闊達さと表裏一体になっているのだった。ある一曲では、ピッチカットのみなので、チェロをギターのように横にかかえてつま弾いていた。同じイル・ポモドーロでもチェロがミナージの時と別の人の時とでは音楽のキレが違っていることは経験ずみなのだが、今回もそれを強く感じた。

急遽決まったリサイタルなので、今回の音楽祭のプログラムは全体が一冊の冊子になっているのだが、それには前述のオルリンスキーが歌うはずだったプログラムが掲載されており、当日はペラの印刷物が配布された。ただしそこに掲載されているのは、デ・サが歌う曲目であり、実際には歌と歌の間に器楽のみの曲がはいりそのいくつかは興味をかき立てられる曲だったのだが、プログラムには書かれていないのだった。

デ・サが歌ったのは前半が2曲。

ヘンデルの Gloria in Excelsis Deo とヴィヴァルディの In furore iustissimae irae で、前者は6曲から構成されているし、後者はアリア、レチタティーヴォ、アリア、アレルヤの構成となっていて、かなり長大なものだ。イル・ポモドーロの音楽的な活気にみちつつ、構成力とデ・サがどう歌ってもきっちりサポートしてくれる安心感が基盤にあって、彼はのびのびと、しかし曲どうしにメリハリをつけて、なおかつヘンデルの最終曲Quoniam tu solus sanctus では嵐のようなテンポでアジリタを歌い抜け、それにイル・ポモドーロもよしきたとばかりに全力疾走し(そこで音楽の形が崩れないのがさすが)会場は興奮のうずにつつまれた。

後半も長めの歌と歌の間には器楽曲がはいったがパンフレットに掲載はなし。後半の歌はバロック・オペラからのアリアで、ヘンデルの《アーチ、ガラテアとポリフェモ》から 'Qui l'augel' .  ハッセの《マルカントニオとクレオパトラ》から 'Un sol tuo sospiro' . ポルポラの《Germanico in Germania》から ’Parto ti lascio'  . 最後はヴィヴァルディの《オリンピアデ》から 'Siam navi all'onde  algenti'. 

ハッセやポルポラのアリアは、難度が高く、難度が高いというのは技巧的にもそうなのだが、曲のつぼを歌手やオケがつかんでいないと練習曲のように響いてしまいかねないのだが、デ・サもイル・ポモドーロもここがつかみのフレーズというのは逃さない。繰り返されるフレーズが単調になることがなく、常に歌手とオケの間にコミュニケーションが成立していて、それは軽妙であったり、掛け合いであったり、緊張をはらんだものであったりする。バロック歌唱で超絶技巧を要するものは、当時はカストラートがいたわけで(女性が歌うこともある)、現在はカウンターテナーが歌うことが多い(女性が歌うこともある)のだが、デ・サの声は目をつむって聴くとカウンターテナーか女性歌手かわからないような特殊な声なのである。ソプラニスタであるといえばそうなのだが、通常のソプラニスタと比較しても、声量がある。彼の声は成長過程にあるようで、柔軟性や必要に応じた声量の供給において目に見える(耳に聞こえる)進化が感じられた。

彼の歌唱スタイルはツェンチッチやファジョーリと較べると、多少カジュアルなところがある。字体でたとえればカチっとした楷書より行書で流していく感じだ。フレーズの細部をつきつめていくとアラがないわけだはないのだが、こういうカジュアルなスタイルの愉しさもある。楽しそうに歌っていて、それがこちらにも伝染するのだ。

アンコールではヘンデル、ヴィヴァルディ、モーツァルトなどが歌われたが、こちらはアンコールでいっそうカジュアル度が増し、踊りながら、身体をスイングさせながら、ステップを踏みながら歌っていた。アンコールの最中に、マイクをとり、オルリンスキーに電話をするから、早く治るようにエールを送ろうと言う話で、最初は携帯を舞台に向けオケのメンバーがエールを送り、くるっと向きを変え観客もオルリンスキーにエールを送ったのだった。また、次のアンコールではオルリンスキーの代わりなのですが、彼のようにブレイクダンスはできません、でもサンバは踊れるよ、と言ってステップを踏んだ。デ・サは若いし、お茶目なところがあるのだ。彼の演奏スタイル、歌唱、キャラクターは世代を超えて、若い人、あまりオペラに慣れ親しんでいない人にもアピールする魅力があると思う。若いオペラファンが増えるといいなあ。

デ・サは去年はインスブルックの古楽音楽祭でヴィヴァルディの《オリンピアデ》で喝采をあびていた。バイロイトでも2年前のヴィンチの《インドのアレッサンドロ》で見事な女装と歌唱で大人気だった。来日はまだなのだけれど、本人は来たいとのこと。

 

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