コンサート「ヘンデルとグレーバー」その1 (演奏評)
「ヘンデルとグレーバー」と題するコンサートを聴いた(アンブラス城、スペイン広間、インスブルック)。
ソプラノのシルヴィア・フリガート(敬称略、以下同様)とメゾの Mathilde Ortscheidt とAkademie fur Alte Musik Berlin によるコンサートである。
シルヴィア・フリガートは2021年にストラデッラの《サン・ジョヴァンニ・バッティスタ》(洗礼者聖ヨハネ)でエロディア—デ娘(サロメに相当)役で聴いた。シャープな感性で、音程、表情を緻密に、正確に演奏する人である。
上記の演奏会のことは、コンサートの後で偶然思い出した。友杉誠志が facebook で《サン・ジョヴァンニ・バッティスタ》の録音開始というアナウンスをしていたのだ。上記のジェノヴァでの演奏の際も、ヘロデ王を友杉が迫力ある声で演じ、最後にヘロデ王とエロディアーデの二重唱で締めくくったのだが、その音楽的緊迫感は独特のもので、ストラデッラという作曲家が心に刻み込まれる経験であった。この録音にも大いに期待したい。
この日のコンサートでも、シルヴィア・フリガートは、発声も音程も、表情づけも緻密に作り上げていくのに対し、Mathilde Ortscheidtの方は、よりリラックスしてのびのびしている反面、音程はところどころ自由にというか緩いのだった。彼女はメゾなのだが、高い音を出すのが苦しいというのではなく、より低い音でふらついてしまうのだった。それは彼女がヘンデルのオペラ《アリアンナ》でタウリデを演じていた時にも感じたことだった。容姿にめぐまれ、背も高く、舞台での存在感やのびのびと歌う感じはとても声質もふくめ魅力的なので惜しい。
オケの Akademie fur Alte Musik Berilin (ベルリン古楽アカデミー)は、この日はヴァイオリン2人、チェロ1人、リコーダ2人、チェンバロ1人であったが、コンサートマスター(女性)が技巧も音楽的リードも素晴らしく圧倒される思いであったが、通奏低音ではチェロ(女性)が実にリズム感よくいつも音楽を生き生きさせており、楽員同士の音楽的呼吸があっており気持ちがよかった。さらに、リコーダはいくつかの曲で目が回るような超絶技巧、よくあれほど早く指がまわるものだというフレーズが延々と続く曲があり、それをこともなげに吹く若者(男性、日本人なのか韓国人なのか中国人なのか東洋系)がいて、フセックやオーベルリンガーを想起した。彼もまた、技巧的でありながら、歌心を失うことがなく、まわりもそれをよくサポートしているのだった。
この日のプログラムおよびプログラム解説は、かなり凝ったものだったので次項で。
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