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2024年8月28日 (水)

グラウプナー《ディドー》その2

前項の続きです。

ハンブルクに来て、グラウプナーは3年間鍵盤楽器奏者として働く。当時のゲンゼマルクト劇場に出入りする人の振る舞いは勝手放題だった。カイザーやその周辺の人たちは、言いたい放題、快楽をむさぼることにも遠慮がなかった。グラウプナーより3年前にハンブルクにやってきたヘンデルも快楽を忌避していたわけではないが、さっさとここを立ち去ったのだった。

ハンブルクでは常に新しいオペラが求められていた。ハインリッヒ・ヒンシュ(1650−1712)というリブレッティスタは、すでにカイザーやマッテゾンのためにリブレットを書いていたが、ウェルギリウスの『アエネーイス』を原作にしたリブレットを書いた。トロイが焼け落ちるとそこから逃れたアエネイスはカルタゴに着く。ディドーに求愛するものは複数いたのだが、アエネイスに恋してしまう。しかし神々は彼に別の使命を与える。ローマ建国である。彼はディドーを捨て、ディドーは死を選ぶ。

カヴァッリがヴェネツィアで1641年に《ディドーネ》を作曲して以来、この主題は人気があった。1688あるいは1689年に、ヘンリー・パーセルはこのエピソードに曲を付けた。1724年にメタスタージオは、彼流のディドーをリブレットにした。

ヒンシュがなしたのは、サブプロットを加えたことだ。新たな登場人物を増やして、葛藤や情熱の場面を増やした。ディドーの妹のアンナは、登場場面が多く、姉と異なり、愛の神キューピッドのいいなりにはならない、あるいはその力に屈しかけるのだが、はねのけたりという一連の葛藤が複数の場面で見られる。彼女を愛するユーバは一貫して彼女に愛を捧げようとしていてアンナのような揺らぎはない。

ヒンシュのリブレットではユノー(ジュノー)やヴェネレ(ヴィーナス)など神々が出てきて、ディドーやアエネアスの個人的な思い、愛情のままに行動することは許されないのだということが繰り返し告げられる。

《ディドー》はグラウプナーにとって初のオペラで様々な工夫を凝らしている。旋律が進んでいくのに、オケはオスティナートで元のところに留まるので両者にわざと乖離を起こす、など。この作品がどう受容されたかはわかっていない。

やがてダルムシュタット方伯にスカウトされ、1709年以降ダルムシュタットで働く。彼は1450ものカンタータと112のシンフォニア、85の組曲を残した。

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