ジャコメッリ《チェーザレ》その7
ジャコメッリ《チェーザレ》の初演歌手の続きです(相変わらず、プログラムのHolger Schmitt-Hallenbergの解説を参照している)。
ジャコメッリの《チェーザレ》ではトロメーオ(クレオパトラの弟)がテノールなのだが、これを創唱したのはアンジェロ・アモレーヴォリだった。彼は早熟で、13歳でボーイ・ソプラノとしてデビューしている。ハッセ作曲の《ダリーゾ》の皇帝オットーネ役だった。アモレーヴォリは18世紀の最も偉大なテノールと呼ばれるが、彼の声域の広さとアジリタは、多くのカストラート歌手やソプラノをしのぐほどだったという。ジャコメッリが彼のために書いた音楽も、彼の音域の広さと表情豊かで繊細な表現力を示している。三連音符や音の跳躍が得意で、それは第二幕の幕切れアリア Scende rapito spumante によく現れているーこのアリアが作品全体の中でも最も技巧的に困難なアリアなのだ。このアリアではオーケストラにも激しい濁流を模す音楽で演奏困難なものになっている。
ソプラノ・カストラート(カストラートにも音域がソプラノの人もアルトの人もいる)のロレンツォ・サレッティは、支配人ミケーレ・グリマーニの要請で、ヴィヴァルディの《グリゼルダ》ではオットーネを歌い、ジャコメッリの《チェーザレ》ではレピド(ローマの元老院議員で、コルネリアに何度も求愛する半ばコミカルなキャラクター)を歌ったが、当時はまだ若手だった。ヴィヴァルディはサレッティに高度な要求をしている。もっともそれは高度すぎて書き直すはめになったのだが。《チェーザレ》の第二幕四場の Vendetta mi chiede は歌手にもオーケストラにも聞かせ映えのする曲となっている。
アキッラ(トロメーオの部下で、クレオパトラと結婚することを夢見ている)を歌ったのは、アルトのアンナ・カタリーナ・デッラ・パルテだった(今回の上演ではフィリッポ・ミネッチャが歌っている)。彼女はローマ生まれだが、ヴェネツィアで活躍し、ズボン役を得意として主役を歌うことはまれだったが、ヴィヴァルディは1734年のオペラ《Dorilla in tempe》で彼女を主役にした。ジャコメッリはここで4つの歌いがいのあるアリアを彼女のために書いている。
以上のように、ジャコメッリは6人の登場人物に注意深く、質の高いアリアを、アリアの数の配分が偏らないようにして書いている。
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