ヘンデル《アリアンナ》その2
ヘンデルのオペラ《アリアンナ》を再び観た(音楽堂、インスブルック)。
この日の方が、テゼオ役の歌手アンドレア・ガヴァニン(カウンタテナー)は調子がよかった。このオペラ、圧倒的にテゼオ役に派手なアジリタのあるアリアが振られている。ペアとなるアリアンナ役のアリアはさほど派手なアリアがない。叙情的に自分の心情を歌いあげるアリアが多い。
それには理由がある。
長年ヘンデルのオペラの主役を歌っていたカストラート歌手のセネジーノがヘンデルのもとを去り、当時結成されたいわゆる貴族オペラの方に行ってしまったのだ。その結果、ヘンデルは新しい歌手と組んで《アリアンナ》を上演する必要があり、そこでスカウトされたのがカレスティーニというカストラート歌手だった。
《アリアンナ》の初演は1734年1月21日、ロンドンのキングズ・シアターでのことだったから、1733/34年のシーズンということになる。貴族オペラの連中は、セネジーノをはじめとしてこれまでヘンデルのオペラを歌っていた歌手を引き抜いてしまいヘンデルのもとに残ったのはアンナ・マリア・ストラーダのみだった。彼女がタイトル・ロールのアリアンナを歌ったのである。
ヘンデルの《アリアンナ》のリブレットは、例によって大陸で上演されたものに手を加えたものだった。ピエトロ・パリアーティというリブレッティスタが書いたリブレットにフランシス・コールマンが手を加えたものである。ピエトロ・パリアーティのリブレットにはポルポラが1727年に曲をつけている。
ただし、少しややこしいのだが、1733/34年に貴族オペラは、ヘンデルに対抗して作曲家としてはポルポラを採用し、アリアドネの神話を用いたオペラを上演したのだが、リブレットはパオロ・ロッリによるもので、《アリアンナ・イン・ナッソ》(ナクソス島のアリアドネ)で、ストーリとしてはヘンデルの話の続編にあたる。ヘンデルのオペラでは、アリアンナとテゼオが結ばれるハッピー・エンドだが、続編のポルポラでは、テゼオがアリアンナを捨て去るのだ。
アリアドネ(アリアンナ)の神話は、当時の観客にはプルタルコスやオウィディウスの著作を通じてよく知られていたと思われる。
クレタの将軍タウリデ(今回歌ったのはMathilde Ortsheidt) は、二組目のカップルのカリルダに言い寄り拒絶され、最後にはテゼオと戦う役だが、これを初演の時に歌ったのはマルゲリータ・ドゥラスタンティで、彼女はもともとローマでヘンデルと知り合い、ヴェネツィアでの《アグリッピーナ》(1709)ではタイトル・ロールを歌ったのだった。長いつきあいだったのである。
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