『ヨーロッパの世俗と宗教ー近世から現代まで』
伊達聖伸著『ヨーロッパの世俗と宗教ー近世から現代まで』(勁草書房)を読む。
本書が扱っている範囲は宗教改革期から21世紀にまで及ぶが、ここでは宗教改革や宗教に関するコンセプトについて紹介する。
この本は文系の本にしては珍しく、120ページ以上におよぶ「第一部 総論 世俗の時代のヨーロッパにおける政教関係の構造と変容」が9人の共著であるということだ。一部は第1章ー第3章に時代別に分かれ、各章が各地域(国)に分かれているし、編者によれば、編者が描いた西欧のスケッチに他の筆者が加筆訂正を行い、それを編者がまとめ直したものを執筆者全員がチェックするという流れで進めたという。第二部が各人の執筆した各論となっている。
編者による序論で、評者が重要だと考えたのは次の点。「『宗教』概念の西洋近代性を再把握する必要性である。『宗教』とは古今東西を通じて普遍的なあり方で存在するものではなく、西洋近代の政治的・軍事的・経済的・道徳的・知的覇権のなかで言説として再構成されたもので、それはキリスト教とりわけプロテスタント的な傾向を帯びていた問題含みの概念である」としているが、まったく同感だ。
第一章では、まずスペインのレコンキスタの過程を、宗教的多様性を特徴とし制度を異にする諸王国から構成されていたものを、カトリックを軸とする宗派化が進んだ時代としている。やがて王権による宗教的権威の領域化が進む。
ドイツでは、プロテスタントが唱えた万人司祭説は、教皇庁の決める聖職叙任ではなく、各共同体が司祭を選ぶ発想が宗教的権威を領域的なものにする大きな転機となった。神聖ローマ帝国内の諸侯は各自の領地の「宗派化」を進める。1555年のアウクスブルクの宗教和議はそのような「二宗派主義」を制度化したものだ。
こうしたなか「領邦教会」制度が構築されていく。領主が教会の首長も兼ねる国教制度である。こうして、政治的権力と宗教的権威の緊密な関係が再構築され、「宗派化」あるいは「信仰告白体制化」が進んでいく。
1648年、30年戦争が終結し、ウェストファリア体制が構築される。神聖ローマ帝国ではカトリックとルター派に加え、カルヴァン派も公認される。これにより様々な制限はあるものの、宗教の論理よりも政治の論理の方が優位なものとなった。
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