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2023年8月14日 (月)

《ヴェネツィアのカーニヴァル》

《ヴェネツィアのカーニヴァル》と題されたコンサートを聴いた(アンブラス城、インスブルック)。

この音楽会はなかなか凝ったものなので説明が必要だ。一言で言えばパスティッチョをコンサート形式で上演したのである。

18世紀にドイツで、《愉快なだまし、ヴェネツィアのカーニヴァル》というオペラが流行り、複数の作曲家が曲をつけた。この日のコンサートでは4人のドイツおよびフランスの作曲家のアリアをつないで簡略版のパスティッチョとしていたわけである。簡略版なのも無理はなく、

演奏時間は二時間程度だし、そもそもこの作品には三組のカップルが出てくるのだが、この日の歌手はソプラノ1人、バリトン1人である。そういう限界というか制約があることを踏まえての話にはなるが、珍しい作曲家の珍しいオペラ作品を聴け、しかも演奏が大変生き生きとしており大いに楽しめた。

この作品のオリジナルはフランスのコメディ・バレ(バレ・ド・クールから発展したオペラ)で、それが何度も書き換えられ、曲がつけられた。オリジナルのリブレットはジャン・フランソワ・ルニャールが書き、それにアンドレ・カンプラが1699年に曲をつけた。当時のフランスの趣味に従い、バレやコーラスのシーンが多い。第三幕にはインテルメッツォとしてオルフェオが上演される。オペラの中のオペラ、劇中劇である。しかし劇のメインとなるのは、ヴェネツィアのカーニヴァルやその華やいだ雰囲気である。

その数年後、ヨハン・アウグスト・マイスターがフランス語からドイツ語にリブレットを翻訳した。その過程でフランス趣味を修正している。1707年にはラインハルト・カイザーとクリストフ・グラウプナーが曲をつけたがこれらは消失してしまった。そのうちの何曲かが複雑な経緯をへて、ヨハン・ダフィト・ハイニヒェンの作とともに伝わった。以上の4人の作曲家のアリアや舞曲などを混ぜて当日のプログラムは構成されていたわけである。ストーリーは、二組のカップル(フランス版からドイツ版で三組が二組になってのだろうか?)が交錯して、最後には元の鞘におさまるというモーツァルト/ダ・ポンテの《コジ・ファン・トゥッテ》と似た話だという。

歌手はソプラノのハンナ・ヘルフルトナー。一人3役でちょっとずつ衣装を変えていた。もう一人はバリトンのマッティアス・フィヴェーク。二人とも、身振りを交え、曲想に応じ雄弁に歌っていた。オケはBarockwerk Hamburg.イラ・ホフマンの指揮・チェンバロである。構成は10人で、オーボエやファゴットがいるのが個人的には嬉しかったが、驚いたことに、コントラバスは途中で2度小さなリコーダを器用に吹いた。オーボエとファゴットも一度リコーダーに持ち替えたので音色は想像以上に豊かだった。単に楽器の種類だけでなく、このオケは最初から大胆にはずんでいた。ヴァイオリンのコンサート・ミストレス(Micaela Storch-Sieben)のリードもよかったし、打楽器がいるのもそれに貢献していた。アリアの歌詞は、イタリア語のものとドイツ語のものと両方あった。

こういう複雑な手続きを踏んだ娯楽ではあるが、料理法が上手なので、聴衆は皆大いに楽しんでいた。

 

 

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