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2023年7月28日 (金)

映画《キアラ》

スザンナ・ニッキャレッリ監督の映画《キアラ》を観た(イタリア映画祭、オンライン上映)。

キアラというのは、アッシジのサン・フランチェスコと共に活動したサンタ・キアーラのことである。気負いなく、中世のイタリアの信仰が淡々と描かれていく。印象的なのは、キアラが当時の教皇庁の男女差別的な傾向に反発を感じるシーンだ。この映画にはキアラ・フルゴーニが深く関わっていて、映画自体が彼女に捧げられている。彼女の著書『アッシジのフランチェスコ』やその他の著作が日本語になっているのでおなじみの方も少なくないだろう。音楽も12,13世紀の音楽が用いられていて、ゼッフィレッリの『ブラザーサン、シスタームーン』とは様々な意味で対照的である。《キアラ》は、過剰なロマンティシズムを排しているところに好感が持てる。過剰なロマンティシズムを排しても、ドラマはあるし、男女の心の通いあいはある、のは言うまでもない。ヴァティカンの高位聖職者(後に教皇)をルイージ・ロ・カーショが演じている。

 

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『ダリオ・フォー喜劇集』

ダリオ・フォー、フランカ・ラーメ著、高田和文訳、ジョヴァンニ・デサンティス監修『ダリオ・フォー喜劇集』が出版された。

評者はまだ序と解説と『開かれたカップル』を読んだだけなので全体を評することは出来ないが、ダリオ・フォーが1997年にノーベル文学賞を取ったのにもかかわらず、まったく出版されていなかった残念な事態はこれで大きく修正されることになったわけだ。訳者の高田和文氏による解説でわかったのだが、日本でもドラマスタジオ、シアターX、劇団民藝などが野田雄司、井田邦明、渡辺浩子の演出で『天使たちはピンボールをしない』(上演時は『天使たちがくれた夢は...』)、『払えない!払わない!』、『クラクションを吹き鳴らせ』、『泥棒もたまには役に立つ』、『開かれたカップル』を上演している。採録された作品中、日本での上演がないのは『法王と魔女』で、無理もないかとも思った。法王の受けている尊崇の念、反発、ヴァティカンがイタリア政治にもたらす影響の強さといった諷刺の前提になるコンテクストが日本の聴衆に共有されているとは言い難いからだ。異文化圏の笑いは、時として、享受することがとてもむずかしい。『開かれたカップル』は、その点は非常にわかりやすい。夫婦が、婚外の恋愛を自由にしようと約束するが、いざ妻が自由にふるまいはじめると夫があたふたするという話である。どの話から読んでもよいのだと思う。

 

 

 

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2023年7月 9日 (日)

《乾いたローマ》

パオロ・ヴィルズィ監督の映画《乾いたローマ》を観た(イタリア映画祭、オンライン)。

ヴィルズィ監督お得意の、いくつもの筋が並行して走っているかに見えて、話が進むと、その複数の筋が互いに絡んでいることがわかってくる。社会の多面性を見せているとも言えるし、われわれの個が社会的存在であることを露わにしている作品とも言える。登場するのは、幻影を見るタクシー運転手、女性医師、水問題についてテレビでコメントする大学教授、アフリカからの難民青年、刑務所からひょんなことで出てしまった囚人など。SNSでつながっている登場人物もいれば、偶然の出会いもある。幾何学的な構成の脚本は、精緻であり人工的でもある。オーケストラが登場するが、指揮者は、バロック界の第一線で活躍する本物の指揮者フェデリーコ・マリア・サルデッリであった。わかる人にはわかる凝った配役である。

 

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2023年7月 5日 (水)

《デルタ》

ミケーレ・ヴァンヌッチ監督の映画《デルタ》を見た(イタリア映画祭、オンライン)。

移民問題に解決が見出せないように、この映画の中のイタリア人と不法移民の間にもコミュニケーションの道は困難を極める。

明るい話ではない。さしたるユーモアもない。ルーマニアから来た密猟者が、地元イタリアの漁師らと対立する。密猟者の中に実はイタリア人、しかも映画の舞台となった場所の出身者がいるのだ。勘ぐれば、彼が密猟者たちの中心人物となることで、人種差別的と非難されることを未然に防いでいるようにも見える。

人も死ぬ。仲立ちをしようという人物もいるのだが、それがそう簡単に効果をあげるわけでもない。アレッサンドロ・ボルギとルイージ・ロ・カーショが出演。

 

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《スイングライド》

キアラ・ベッロージ監督の映画《スイングライド》を観た(イタリア映画祭、オンライン)。

タイトルのスイングライドは、移動遊園地の乗り物で、巨大なブランコのようなものが、回転している乗り物である。

主人公は15歳の肥満に悩む少女ベネデッタと、移動遊園地の一員でトランスジェンダーのアマンダ。二人が知り合って、興味を持ち、アマンダがオーディションを受けたり、ベネデッタが家出をしてアマンダと一緒に移動するのだが、そこでいくつかの事件も発生する。ベネデッタの両親にも微妙な不和がある。ベネデッタはそれを見抜いている。思春期のうつろいやすさ、思いがけない変化を巧みにすくい取った映画である。

 

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《あなたのもとに走る》

リッカルド・ミラーニ監督の映画《あなたのもとに走る》を観た(イタリア映画祭、オンライン)。

49歳でスポーツ用品の会社社長かつ遊び人の男(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)が主人公。母の葬儀で故郷に帰り、ひょんなことから車椅子に乗った状態で若い美人と知り合い、車椅子が必要な人と誤解される。その美人の姉は本当に車椅子を必要とする女性キアラ(ミリアム・レオーネ)で、二人の間の交際が始まる。にせ車椅子の男は、ある意味では、とってもけしからん男なのだが、ユーモラスな展開に思わず引き込まれる。二人は奇跡を求めてルルドにも行く。ミリアム・レオーネのすがすがしい凜とした演技、メークのおかげで?暗い印象がない。フランス映画のリメイクとのこと。ただし、キアラの祖母役は、イタリア版のオリジナルである。

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2023年7月 1日 (土)

《タイガー・ボーイ》

イタリア映画祭のオンライン上映で《タイガー・ボーイ》を観た。短編映画、約20分。ガブリエーレ・マイネッティ監督。短編は無料で観られる。

小学生の男の子がいつもタイガーマスクの仮面をかぶっている。プロレスのファンである。学校でも仮面をとらないことが問題となり、校長に呼ばれる。この校長が妙なふるまいをするのだが、男の子と校長の関係は、写実的にある種の小児性愛と捉えるのか、校長が権力の象徴であり、校長にさからう子どもは、権力にたてつく市民のアレゴリーなのか。短編なので、それを判断する材料は、十分に与えられていない。どちらに判断しても、あるいは二重に解釈してもよいのかもしれない。

 

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