ヘンデル作曲《ヘラクレス》最終日
ヘラクレスのオラトリオ《ヘラクレス》最終日(3月2日)を観た(カールスルーエ、州立劇場)。
この日が筆者はこの上演を観る3回目であったが、この日は指揮がいくつかの点で筆者にとって好ましい方向に変化した。
1.指揮者から見て右手のチェロ、テオルボなど通奏低音への指示が増えた。手振りで指示することもあれば、顔を向けて首を振ることもあったが、何度か明らかに低音弦のエッジが効き(アタック音が明瞭になり)フレーズがより生き生きとする瞬間を確認できた。
2.アリアの途中で歌手がテンポを落としたときに、伴奏部分でレクーペロ(テンポを戻す)をして曲を引き締めるのも何回か確認でき、アリア全体がより均整の取れた音楽になっていた。
指揮者のモーテンセンは、このオラトリオの合唱を重視しており、そのことは前回も今回も共通して感じられ、この点はオラトリオとオペラの違いから来るもので、納得のいくものだ。周知のようにバロック・オペラの合唱は、大抵は曲の最後に登場人物が全員で歌うといった体のものなのだが、オラトリオの場合にはまさにギリシア劇のコーロのようにナレーター的な役割や、その場の情景、情感を描き出す積極的な役割を果たしているからだ。
この日はこの演目の最終日であるからか、カーテンコールで裏方も登場したのが印象的だった。裏方は数十人いて驚くほど多い。オペラの上演というものが、指揮、オーケストラ、歌手、合唱だけでなく多くのスタッフによって支えられてはじめて成り立つことを改めて確認した。
この日の上演が筆者が観た3回の中でもっとも充実した演奏、上演であったと感じる。最終日ということでより熱がこもったのかもしれないし、指揮者モーテンセンは、自分の指揮の細部を改善しつづける稀な資質をもった優れた指揮者であるからなのかもしれない。
こうした素晴らしい上演に巡り会えたことに感謝。
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