ヴェネツィア・カンタータ百年の系譜
ヴェネツィア・カンタータ百年の系譜、と題するコンサートを聴いた。ディスコルシ・ムジカーリの演奏で、ところどころに団体主催者の佐々木なおみさんの解説が入る。佐々木さんの解説にあるように、ヴェネツィアは他に先駆けてカンタータが盛んになり楽譜も出版されるのだが、バルバラ・ストロッツィの1664年の最後の曲集以来、約30年の空白期がある。その後、復活するカンタータには重唱カンタータが顕著になるというのがコンサートを貫くコンセプト。カンタータの合間に2曲のヴァイオリン・ソナタ(カンタータと同時代の)が演奏された。ソナタといってもソナタ形式とはまだ無縁の時代。ここで重要なのは、ポリフォニー音楽からの訣別で、ヴァイオリンが旋律も奏で、華やかな装飾音も奏で、縦横無尽の活躍を見せる一方、それを複数の通奏低音楽器が支えていた。ポリフォニーの場合、ある声部(を担当する楽器、人)と他の声部は対等であるが、ヴァイオリン・ソナタの場合、ヴァイオリンが圧倒的に他の楽器を従えている主従関係で、これが当時は新しかったのだと納得。
単声と重唱のカンタータの説明はまったく上記の通りなのであるが、個人的にはレグレンツィの重唱カンタータのポリフォニック的要素(伝統的要素)を多分にもった曲が魅力的であった。ソプラノ、アルト、テノールに旋律が受け渡されつつ、交差する音がハーモニーを奏でていく様が実に耳に心地よく、レグレンツィのもっといろいろな曲を聴いてみたいと思った。
単声のカンタータは、ポリフォニー音楽から離れて、ホモフォニー的な響きが当時は新しかったのだと思うし、それはルネサンス期からバロック期にかけて世界観・宇宙観が変容したことと関係があるだろうというのが最近の筆者の見立てであり、関心事である。
演奏はどの曲も充実していて、歌手の各声部、チェンバロ、オルガン、バロック・ハープ、バロック・チェロ、テオルボと豪華な編成で、バロック・ハープに関しては楽器の説明があった。バロック・ハープは三列に弦が並び、両脇の二列がピアノなどの白鍵に相当し、真ん中の列の弦は黒鍵に相当するという説明は判りやすかった。実に中身のつまった充実し、音楽的な愉しみにあふれたコンサートであった。
場所は入谷のミレニアムホール。
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