ブルーノ・デ・サのリサイタル
ブルーノ・デ・サのリサイタルを聴いた(辺境伯劇場、バイロイト)
この日のリサイタルは、'Roma Travestita' (ローマの異性装)と銘打たれている。トーマシュ・クラール(バリトン歌手)のリサイタルでもそうであったが、デ・サも同じタイトルのCDを最近出したところである。
ただ、CDの曲目とリサイタルのプログラムを比較してみると、重複しているのは約半分で、残りの半分は、CDには入っていないアリアを歌っていた。パルナッソスというエージェント(プロダクション)に所属している歌手のアルバムにはよくあることなのだが、このCDでも世界初録音が7曲もある。大手のレコード会社の一部、プロモーターの一部には売らんかなで、音楽愛好者一般に人気のある演目を上演し、いわゆるレパートリーをなぞっているのに対し、新たなレパートリー、音楽領域を積極的に紹介しようという方針に共感を覚える。
ローマの異性装というのは、教皇シクストゥス5世が1588年に女性が劇場や教会で歌うことを禁じたので、劇場で女性役を誰がやるかと言うときにカストラートを起用し、彼らが女装して歌っていたことを指しているのだ。当時はローマとヴェネツィアは別の国なので、ヴェネツィアでは女性歌手も歌っていたのである。実はカストラートを作る行為も1587年に禁止されたいたのだが、落馬などの事故を言い訳に抜け道があった。
というわけで、この日のデ・サが歌ったアリアはアンコール曲は別として、女性役が歌うアリアだった。アレッサンドロ・スカルラッティの《グリゼルダ》、ヴィヴァルディの《イル・ジュスティーノ》から2曲、ジュゼッペ・アレーナの《アキッレ・イン・シ—ロ》、ポルポラの《カルロ・イル・カルヴォ》。最後のポルポラは去年はデ・サは舞台で男の役を歌っており、この日はジュディッタという幼いカルロの母親役を歌い、満場の喝采をあびた。ここで休憩。前半ではアリアの前後にアレッサンドロ・スカルラッティのシンフォニアやコレッリのトリオソナタが演奏された。
後半。
ジョアッキーノ・コッキの《アデライーデ》から’Timida pastorella' (内気な女羊飼い)、ハッセ、ガルッピのコンチェルト、ガエターノ・ラティッラの《ロモロ》から'Vanne barbaro alle selve', ヴィヴァルディのシンフォニア、ピッチンニの《良き娘》から 'Furie di donna irata' (いらついた女の怒り)。
アンコールはブロスキの有名なアリア'Son qual nave' とボノンチーニの’Ombra mai fu'.
指揮はフランチェスコ・コルティでオケはイル・ポモドーロ。ただしイル・ポモドーロは指揮者兼チェンバロをふくめて7人の体制。
CD録音の時の指揮とオケなので曲はしっかりはいっているという感じで、弦楽器間の受け渡しも細かいニュアンスまでのやりとりが実に音楽的でよかったが、シンフォニアなどでは厚みに欠けるところなしとはしないのであった。ただし、この人数になってくるとテオルボの音、加わっているときの全体の響きのニュアンスの変化は聞き取りやすく、これはこれで音楽的に充実しているのであった。
デ・サはプログラムには、カウンターテナーでもなく、ソプラニスタでもなく、ソプラノと書かれていた。この人の声は不思議な声で、高音域で強い声を持っており、逆に低い方は出しにくそうなのだーというか高音ほど響かない。まさに女性のソプラノのよう。
去年と較べ、着実に人気と実力をつけつつある注目の歌手である。
| 固定リンク
コメント