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2022年9月15日 (木)

ストラデッラ作曲《サン・ジョヴァンニ・バッティスタ》(1)

アレッサンドロ・ストラデッラ作曲のオラトリオ《サン・ジョヴァンニ・バッティスタ》を聴いた(シュタット教会、バイロイト)。

当ブログでも昨年12月の記事に書いたが、筆者はこの曲をジェノヴァで聴いている。この時、サン・ジョヴァンニ・バッティスタ(洗者聖ヨハネ)の役をツェンチッチが歌うはずだったのだが、病気のため交代となった。バイロイトでツェンチッチのサン・ジョヴァンニを聴けることになったのは幸運というほかない。

前回のジェノヴァでは会場がオペラ用の劇場で、今回は教会である。当然と言えば当然であるが響きが全く違う。教会は残響が長く、早いパッセージは前の音と次の音がオーバーラップしてしまい細かなフレーズが聞き取りにくい。逆に伸びやかなフレーズは全部に力を入れずとも、残響が助けてくれる感じとなる。そのあたりをオーケストラもよく心得て、フレーズの終わりは短く詰めていた。

この曲は内容としては、大まかに言えば、リヒャルト・シュトラウスの《サロメ》と同じである。オペラではないので、舞台はないし、7つのヴェールの踊りなどはないのだが、ヘロデ王に対し、サロメ(エロディアーデの娘、聖書には名前は登場しないが日本ではオスカー・ワイルドやリヒャルト・シュトラウスのオペラや、ギュスタヴ・モローの絵によりサロメの名で知られているのでここではサロメと記す。原曲の楽譜にはサロメ母子はHerodiade la Madre , Herodiade la Figlia と記されサロメの名はない)が母にそそのかされて、サン・ジョヴァンニ・バッティスタの首をくれという。なんでもあげると言ってしまったヘロデ王は逡巡するのだが、ついにはサロメの願いを受け入れる。しかし、ヘロデは深い悔悟の念に襲われる、という話で、対話形式でアリアとレチタティーヴォが使い分けられて進行していくので、舞台がないオペラと言ってよいだろう。カンタータやセレナータも同様の性質を持っており、今回のバイロイト・バロック・フェスティヴァルでは2つのオペラ(1つは舞台装置つき、もう1つは演奏会形式)を中心に、周りにカンタータやオラトリオ、セレナータを配置してその親近性、類似性がごく自然に理解、体感できるように構成されているのだと言えよう。

さてここからはプログラムに記されたこと(この項は珍しく筆者の名Elizabeth Sasso-Fruthが記されている)を中心に記す。

この曲が作曲されたのは、Venerabile Compagnia della Pieta' della Natione Fiorentina が作曲家に委嘱したのだとある。委嘱した団体は同信会であるが、日本で言えば県人会のようなもので、フィレンツェ生まれの人が集まる集団である。そこが洗者聖ヨハネの曲を委嘱するのは理解しやすい。フィレンツェの守護聖人が首を切られた聖ヨハネであるからだ。1675年の聖年のために依頼した。

作曲家アレッサンドロ・ストラデッラ(1639-1682, この人は、女性関係で何度も揉めていて、ジェノヴァで刺殺された)とリブレッティスタのアンサルド・アンサルディ(1651-1719)は、新約聖書聖書にさほど厳密には従っていない。マルコ福音書とマタイ福音書にこのエピソードは書かれているのは周知の通り。このオラトリオにはヘロデ王の助言者(大臣?)が出てくるが聖書にはいない。サロメに名がなかったのも前述の通り。

アンサルディはフィレンツェやローマでいくつかのアカデミアに加入しており、時流の好みを理解していたからこそ、聖書から逸脱しているのだと言えよう。例えば冒頭でヨハネ(サン・ジョヴァンニ・バッティスタ)が「親しい森よ、さらば」と歌うのだが、これはルネサンスからバロック時代に流行した牧歌文学、牧歌劇を踏まえたものだ。都市よりも田舎での素朴な生活こそが理想と歌われるのである。しかし聖書によれば、ヨハネはヘロデ王の宮廷に行く前は荒野にいたのだ。前述のように王の助言者・大臣も聖書には登場しない。

オラトリオの性質上、ダンスの場面はない。

当時の教皇国家では女性歌手の存在が否定されていたので、それにならってこの日の演奏も全員男性歌手(サロメ母子はカウンターテナー歌手)によって歌われた。

 

 

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