アルビノーニ作曲《アウローラの誕生》
トマーゾ・アルビノーニ作曲のセレナータ《アウローラの誕生》を聴いた(辺境伯劇場、バイロイト)。
この項、プログラムのルネ・クレメンチッチの解説に負うところ大です。
バロック時代のセレナータは、カンタータの一種と言ってよく、ただしその名のとおり、夜(夕べ)に、誰かを讃える目的で演奏、演じられることが多い。舞台はアルカディアや牧歌的なところで、実際に演奏されるのは戸外、貴族の館の庭などが多く、衣装をつけて演じられることも歌われることもどちらもあったようだ。出演する登場人物は、神話的人物やニンフであるのだが、その実、現実の王侯貴族やその妻の誕生日や聖名祝日を祝う目的で作曲が委嘱され演じられたもののようだ。
《アウローラの誕生》は、エリザベス・クリスティーネ・フォン・ブルンシュヴィックーヴォルフェンビュッテルに捧げられた。彼女は皇帝カール6世の妻であり、マリア・テレジアの母である。皇帝の在ヴェネツィア大使が1711年から1717年の間にアルビノーニにセレナータの委嘱をしたようだ。舞台はギリシアのテッサリア地方のテンペの谷、そこにペネイオス川が流れ、ここはアポロ神ゆかりの聖地なのだ。
というわけで、このセレナータの登場人物はアポロと川の神ペネウス(ペネイオス)、森のニンフのダフネ、風の神ゼッフィーロ、花の女神フローラで、彼ら彼女らがあけぼのの女神アウローラの誕生日を祝うという趣向なのである。この女神アウローラが、エリザベス・クリスティーネでもあるわけだ。最後は 'Viva l'Aurora, Elisa viva!' (アウローラ万歳、エリーザ万歳)で締めくくられる。
この作品のリブレットを書いたのが誰かは不明で、自筆稿はヴィーンの国立図書館にある(MS17,738)。
演奏は、指揮がマルティーナ・パストゥスツカ、オウ・オーケストラ。
ダフネがNarea Son(ソプラノ), ゼッフィーロがデニス・オレッラーナ(カウンターテナーでより高いソプラニスタ)。フローラがソーニャ・ルニェ(メゾソプラノまたはアルト)、ペネオがステファノ・ズボンニク(テノール)、アポッロが急遽交代してニコラス・タマーニャ(カウンターテナー)。デニス・オレッラーナは当初は《インドのアレッサンドロ》のタイトル・ロールを歌うはずだったがコロナのため急遽交代となり、この日やっとバイロイト・デビューを果たした。彼はまだ21歳でとても若いが、高域に張りのある強い声が出る。Son は顔の表情や身振りが達者な感じで、経歴をみるとモーツァルトの《コシ・ファン・トゥッティ》のデスピーナなどを歌っていてなるほどと感じた次第。ソーニャ・ルニェは、フローラの歌をいかにも楽しげにのびのびと歌っていて好感を持てた。タマーニャは1日か2日でよくこの役を歌えるようになったと感心。
アルビノーニのセレナータを聴くのは初めてで、きびきびとした演奏の良さもあいまって音楽的表現の幅に感心するやら、アルビノーニ像の修正をせまられるやら。アンコールでは、タマーニャのファンダンゴの部分が歌われ、テオルボとギター(コントラバス奏者が持ち替え)が活躍。音楽的に楽しい夕べであった。
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