《マルクスは待ってくれる》
マルコ・ベロッキオの映画《マルクスは待ってくれる》を観た(イタリア映画祭2022)。
今年のイタリア映画祭は、実際の映画館と ストリーミングで実施され、僕が観たのはストリーミングによるもの。
この映画はドキュメンタリー映画で、ベロッキオの兄弟、姉妹(80代かと思われる)が出てきて、インタビューに応じている。ベロッキオの生まれ育った家庭、兄弟、姉妹の関係が解き明かされるのだが、マルコの兄弟、姉妹はきわめて個性的なのだ。
兄の一人は優秀でインテリの世界の有名人を家に招いたりする人だった。マルコも映画界で名をなしていく。しかし、一方で、兄の一人は、始終、罵詈雑言をわめきちらす奇異な言動の持ち主で、マルコは家族は彼が死ぬのを待ち望んでいたと証言している。姉の一人は聾唖者であるのか、発話が聞き取りにくい(日本語字幕が出るので、映画の内容を理解するのにはまったく問題はない)。しかし何より彼らが抱え続けた最大の問題は、マルコの双子の弟カミッロが29歳で自殺したことだ。
この映画はそれがなぜだったのか、をめぐる物語だ。優秀な兄がいて、自分が凡庸であることをどうやって受け入れるのか、受け入れられないのか。カミッロの苦しみは、兄弟、姉妹によって見逃されてしまったのは何故か。
マルコもふくめ1960年代後半は、左翼が熱い季節だったわけだが、人民を救うことに夢中になるあまり家族の苦しみに気づかなかった兄弟たち。カミッロは「マルクスは待ってくれる」と反論したという。
これまでのベロッキオ作品を解き明かすヒントに満ちている映画で、ベロッキオ作品をこれまで見てきた人にはおすすめである。またイタリアの兄弟・姉妹、家族(母の性格も際立っている。彼女はとても信心深いのだ)、ベロッキオ世代(彼は1939年生まれ)の家族の貴重な証言でもある。
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