サン・マルコ寺院の荘厳ミサ(二回目)
荘厳ミサの一回目は、後日、衝撃的な情報を入手したのだった。
チーニ財団の Accademia Vivaldi の事務局の T氏が合唱団のメンバーなのだが、その日は a doppio coro (二重合唱団)ではなくて、片方だけに
合唱団員を集めていた。しかも、曲目も変更になって Croce ではなく Grandi を演奏したというのだ。マエストロの意向だという。こういう変更にマエストロのどういう考え、あるいは内部事情がかかわっていたのかは知るよしもないが、合唱団のホームページには訂正情報は記されていないので、当事者の記載というのは、ほぼ一次資料なわけだが、実際にはそれが絶対的に正しいと言えない場合もあるわけだ。演奏会のプログラムなどもそうで、すでに印刷されているので、あらかじめ発表通りのプログラムになっているのだが、当日に張り紙などがあって、演奏順番や演奏曲目が変更になったりすることはままある。文書が残っていてこう書いてあるから、ということは基本的に重要だが、それと矛盾した情報が出てきた場合に無条件にしりぞけるのは危険なわけである。
さて、今回、一週間経過して、もう一度サンマルコ寺院の荘厳ミサに出席させていただいた。早めに行くと、すぐに堂内に入れてくれた。堂内では合唱団が仕上げの練習をしている。前回と違って、信者席からみて右上の合唱団のメンバーが前方に出てきていて複数のメンバーが見える。しかも指揮者は背中でなく、左側に向かって指揮をしている。そう思って左上を見ると合唱団がいるではないか。今回は、正真正銘の二重合唱の曲が聴けるわけである。両方に合唱団がいる場合、右上の指揮者は、左上の合唱団に顔を向けて、かなり大きく腕をふって指揮をしていた。考えてみればもっともなことで、両合唱団の距離はかなりのものがあるので、目線やちょっとした動きで伝えることは困難だろう。
音響の違いであるが、興味深かった。相変わらず、反響、残響がたっぷりとあるので、どの音がどこから聞こえてくるかは判りにくいのだが、音源そのものが広がっている感じがわかるのだ。前回は、右側だけに音源があった。その時と較べると明らかに音源の広がりが感じられるのである。両方からきて音が混じりあっている感じは何となくわかるのである。
前回と明らかに曲が違っていたので、今回は クローチェだったのかもしれない。
振り返ってお堂を見ると、合唱団が陣取れそうなところがあと二カ所はある。もしかしたら、特別な祝祭の特別な日には、合唱団を4つにわけて複雑な構成の楽曲を奏したかもしれない。12声部とか16声部の曲が実際存在しているのは、こういうお堂の建築的構造を前提としているのかもしれない。
今回は、前回と緑色の僧服の方と赤い僧服の方が入れ替わっていた。隣人への愛ということについて聖書の引用があったし、司祭のお話もそれについてだった。二回目のせいか、今回のほうがミサが短く感じられた。
荘厳ミサを全体として経験し、ミサというものの儀式的な性格と同時に、演劇的な性格、荘厳ミサゆえの音楽的性格などがなんとなくわかってきた気がする。細部の変化(公会議などで)はあるにせよ、ミサというものが古代からずっと続いていることの奥深さに触れた思いがする。ありがたい貴重な経験に感謝のほかない。
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