ペルゴラ劇場の杮落としのスペクタクル《テーベのエルコレ》
ヤーコポ・メラーニ作曲、アンドレア・モニーリア台本のオペラ《テーベのエルコレ》を観た(ペルゴラ劇場、フィレンツェ)。
この曲は360年ぶりの復活上演であり、いろいろ説明が必要だ。初演されたのは1661年。ペルゴラ劇場が出来上がったのは1657年だが内輪のお披露目だけで、大々的なお披露目はこの1661年のコジモ3世(将来のトスカナ大公)とオルレアンのプリンセス、マルゲリータ・ルイーザの結婚を祝した大スペクタクル《テーベのエルコレ》だった。Festa teatrale とリブレットに書かれているように音楽のついた祝祭劇なのだ。
ロッシーニで言えば、《ランスへの旅》が、本来はシャルル10世の戴冠の祝祭のためのその時限りの上演を前提としていて、その後再演がなされなかったように、《テーベのエルコレ(ヘラクレス)》もこの将来の大公の結婚という国家的祝祭のための大スペクタクルだった。その後、再演されることはなく、近年になって4葉の楽譜が見つかった(ピストイア、ヴァティカン、パリ国立図書館)。
ペルゴラ劇場は、世界で最初のイタリア式劇場、平土間と桟敷席のある劇場なのだが、これを設計したのはフェルディナンド・タッカで、資金を出したのは枢機卿ジョヴァン・カルロ・デ・メディチ(コジモ3世の叔父)だった。形式的にはこの劇場は、アカデミア・インモービリが運営しているのだが、その長がジョヴァン・カルロだった。
今回の上演は、この発見された楽譜を、指揮者のサムエーレ・ラストルッチが再編成して、この日の上演になった。初演の時には数百人の登場人物(神々や英雄、ニンフなど)がいたし、長時間で場面も数十あったとのことだが、この日の上演では当時の貴族の服を来た男女がヴェーネレ(ヴィーナス)やジョーヴェといった神々を演じ、彼・彼女らが歌うのだった。前方にいかにも大貴族然とした二組のカップルが舞台上に座っているのだが、それが登場人物であり、かつ新郎新婦、その親ということになっていた。上演時間は約1時間半。発見された楽譜の量からして作品全体を復元することは困難であったろう。しかし、二人の青年がナレーターとして歴史的な事情、今ここにいるのは(1661年当時ペルゴラ劇場にいたのは)誰々ですなどという解説件ナレーションをしてくれるので、目の前に与えられた具体的素材から想像をとばしてこんな大スペククルでもあったろうかと夢想する一時であった。
ちなみに、ペルゴラ劇場が、チケット代を払えば市民も入れる劇場、パブリック・シアターとなるのは18世紀にはいってからである。
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