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2022年2月21日 (月)

ヴィヴァルディのマスターコース(1)

ヴェネツィアのチーニ財団の Accademia Vivaldi のマスターコースを特別に聴講させてもらった(ヴェネツィア、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島)。

チーニ財団は、この島全体を戦後に再整備して、立派な図書館をはじめとするさまざまな施設を持っている。もともとが修道院だったところで、今も一部は修道会が使用しているようだ。

ここで昨年の11月と今年の2月、マスタークラスに聴講生として参加した。11月は、バロック歌唱のコース。2月は、通奏低音とバロック歌唱のコースがあり、そのすべてを聴講した。

バロック歌唱のコースでは、どこかの音楽院あるいは大学院に所属していたり、すでに卒業して歌手の卵として活動を始めている人が参加している。講師は、ジェンマ・ベルタニョッリ。皆、ジャンマと呼んでいるので、ここではジェンマ先生と記すことにしよう。後で知ったのだが、ジェンマ先生は、日本に何度も来ていて、特に草津の音楽祭で2013年以降マスタークラスをなさっていて日本でも知られているらしい。考えてみると、草津の音楽祭は、夏期なので、その頃からぼくは夏はヨーロッパに出かけることが多くなり、草津の音楽祭に深い関心を寄せることがなかったのだと思う。2013年以降、オペラなりバロック歌唱なりのマスタークラスには結構出ているし、そういうものがあれば聴いてみたいと思ってはいたのだが。

ジェンマ先生は、われわれに馴染み深いドニゼッティやヴェルディ、プッチーニも歌っていたし、バロックも歌っていた。今は舞台はしりぞき教職や乞われてレコード録音に参加したりすることはあるようだ。ジェンマ先生のバロック歌唱の指導は、実に見事なものだ。

1. 一人一人の生徒・歌手に合わせて指導していく。11月の時も2月の時も、決まったやり方を押しつけることはまったくないし、決まった指導法を繰り返すということもない(重要な点を複数の人が指摘されるという場合は別)。ある生徒は、発声練習の仕方を細かく指導して音域を少し広げる訓練を重視していたし、ある程度声が出来上がっていると、曲を歌ってそれを細かく直していくことが中心になる。

2.生徒は一生懸命歌うと、フォルテを連発しがちなのだが、そうすると、単語ごとにアクセントのあるところを強く歌って、フレーズ(fraseggio)のラインが綺麗に出ない。それはアリア部分でもレチタティーヴォの部分でも同じことが言える。これを直される生徒は、毎回多い。

3.歌うことに集中して、肩があがったりすると、呼吸の仕方を注意される。生徒の胸より少ししたの背中側を触ることもあるし、先生のその部分を生徒にさわらせて歌ってみせ、歌っている時にその部分がどう変化するのかのお手本を実感させる。呼吸の指導も受ける人が多い。これはイタリアの音楽院で指導を受けた方にうかがうと、イタリアでは徹底して呼吸の指導が繰り返し行われるとのことだった。

4.フォルテの時だけでなく、フレーズのラインというものを考えずに、レチタティーボを歌ったり、アリアを歌ったりすると、そのフレーズが細切れになりがちで、一つのフレーズに一つのアクセントという流れにならない。先生がそうではなくて、こういう風にラインをつくってと歌ってみせ、そこで手でラインを描きながら歌ってみせ、生徒が歌うときにも手でラインを途切れさせないようにと身振りで指導すると、ほとんどの生徒はラインが綺麗になる。修正の度合や、何回繰り返してそれが達成できるかは生徒によって早い遅いがある。

5.指導法とは、直接関係ないが、専門的に歌唱を長年学んでいる人でも音取りが難しいフレーズはある。声楽の人に聴くと半音階が続いたりすると嫌だという。ピアノのような鍵盤楽器だと、むしろ半音階は指が隣なのでミスタッチしにくくて楽なので逆だ。音取りの問題は、後述するヴァリアツィオーネの問題のところで再び触れる。

そう、ジェンマ先生の指導の最大の特徴はヴァリアツィオーネにあるのだ。長くなったので次の項目で取り上げます。

 

 

 

 

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