コモの Opera education
コモの Teatro Sociale でロッシーニの《チェネレントラ》を観た。
これは Opera Education という企画で、1996年からずっと続いているのだが、僕は今回初めて知ったし、イタリアで誰でも知っているというものではないようだ。
この企画が興味深いのは、オペラ自体に、子供が曲中のいくつかの歌を覚えて、舞台の歌手と一緒に歌うという点だ。その場面に来ると、指揮者はオーケストラに背をむけて、客席の子供たちにむかってわかりやすく指揮棒を振るのだ。その場面が終わるとまたくるりと背をむけオーケストラの方を向いて指揮をする通常の形態に戻る。
オペラというものは、当然、音楽劇という一種のお芝居なわけで、演劇に参加することで、その芝居の世界に没入したり、異なった世界観を味わったりすることが出来るだろうし、また、そこで音楽が単に楽譜を音にするということを越えて、台詞・歌詞にこめられた情緒、感情をいかに表現するかを学んでいくことができるだろう。当然ながら、リズムと歌詞の関係で歌いやすいところ、歌いにくいところ、早口になるところなどがあり、テクニカルなことにも身体で気づき、習得していくだろう。こういう子供たちが将来、音楽を豊かに享受し、オペラ・ファンにもなることを期待しての活動らしい。
第三者的に鑑賞するのでも、たとえばテレビで観るのと、劇場で味わうのでは、迫力や身体性の表現の甘けとめがまったく異なるが、子供たち自ら歌うということになるとさらに飛躍的に経験の層が深くなるのではないかと想像する。
オペラはヨーロッパでもアメリカでも日本でも、客席の老化が著しい。むろん高齢者がオペラを楽しむこと自体を誰も否定する人はいないわけだが、若い観客層が育っていないことに共通の危機感があるわけで、それにどう向き合うかの一つの解がここにあると言えるかもしれない。
演出としては、チェネレントラ一家が暮らし、経営しているのがホテルという設定で、チェネレントラの継父ドン・マニフィコは、経営の傾いたホテルをどうにかしたいと思い、娘が玉の輿に乗ることを切望しているという設定にしている。チェネレントラは、ホテルの下働きをさせられている。三人のボーイがモック役(歌わないが、語り手的な台詞はけっこうある)で登場し、劇の展開の理解を助けている(客席には小学生だけでなく、より幼い子もちょくちょく見かけた)。歌っている子供はほぼ小学生くらいのようだった。モック役の三人はどたばたや、感情表現を大袈裟にして、子供にもわかりやすくということをこころがける一方で、音楽はまったくロッシーニの《チェネレントラ》で、早口のところは早口、オーケストレーションが入りくんでいることろは入りくんでおり、本物を聞かせているし、子供が歌う場面で急にテンポが遅くなるなどということもなく、立派なものだった。
コロナ事情で直前に指揮者が変わったとのことで、まれに指揮者の望むテンポの変化にオケがとまどっているところもあったが、それは微細な傷と言えよう。16時と20時半の上演で、チェネレントラ以外はほとんどダブルであった。20時半の部で、アリドーロを友杉誠志氏が歌っていた。アリドーロは不思議な衣装で、メッセンジャー的な性格を意識したものであろう。途中で、平土間から出てきでそのまま平土間で舞台に向かって歌う場面があるのだが、後方にいる僕にも彼の声は朗々と響きわたるのが聞こえた。
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