スカラ座開幕
今年のスカラ座開幕の様子をテレビ中継で見た(RAI 1).
演目はヴェルディ作曲の《マクベス》。例年との厳密な比較はイタリアにずっと住んでいる人でないと難しいが、今年は力が入ってると見えて、先月からRAIの通常の放送の時に、この演目の宣伝のスポットが何度も流されたのである。これは去年はコロナのせいで通常の形での上演が出来なかった、観客が入れられなかったが、今年は再び観客が入れられることが大きいかと思う。しかも、ドイツやオーストリアでは再び感染者が増えて劇場の通常の活動が出来なくなっている中で、イタリアはスーパーグリーンパスを導入しつつ座席を満席にできるという状況を保っている。
司会者も超大物のブルーノ・ベスパが起用されていた。
大統領が入場すると、平土間の人は全員が起立して、後ろを、ロイヤルボックスの方を向いて拍手。拍手が鳴り止まない。大統領が手を振り、さらに拍手で何分間か鳴り止まなかった。マッタレッラ大統領は、もう任期の終わりが近いのだが、ミラノ市民の熱い支持を得ているのは明白だ。そしてようやく国歌、インノ・ディ・マメリ。これは不思議なのだが、僕の経験では一番歌詞をきちんと歌えていたのは2011年のトリノの観衆だった。国家統一は自分達(の祖先)が成し遂げたという誇りがあるからなのだろうか。2011年はイタリア統一150周年だったので、どこの歌劇場でも大統領が臨席でなくても国歌演奏がしばしばあったのだが、抜群に多くの人が歌っていた。
《マクベス》はシャイーの指揮、リヴァモアの演出で、舞台はミラノだか、ニューヨークだか大都市であり、序曲の間には登場人物が自動車に乗っていたりする。
マクベスは、ルカ・サルシ。新聞のインタビューでは、今回、ヴェルディの自筆稿にあたる機会を与えられ、作曲家の細かい指示を数十箇所にわたって新たに読み込んだという。シャイーもテレビのインタビューに答えて言っていたが、《マクベス》ではヴェルディは歌手の音声の大音量を期待しておらず、徹底的に表情をつけることにこだわっていたという。だからPPP の後にさらにデクレッシェンドが来たりするという。問題は、観客がそういう歌い方を期待しているか、期待するようになるか、ということだろう。
僕が見たのは別の用事のため第一幕のみだが、マクベス夫人ネトレプコの衣装は真っ赤で、そこにワッペンを貼り付けるように立体的に鶴の刺繍がいくつもあるのだった。ネトレプコの声は、以前よりもさらに低く太くなっているようだ。最初から顔の表情も迫力満点で、あんな楚楚とした女性が殺人を唆すのか、という意外性はなく、最初からなんというか脂ぎって欲望のためには何でもやるという感じが漲っているのだった。無論、マクベス夫人の人物造形にはどちらの可能性もあるだろう。
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