ポルポラ作曲《カルロ・イル・カルヴォ》その1
ニコラ・ポルポラ作曲のオペラ《カルロ・イル・カルヴォ(カルロ禿頭王)》を観た(バイロイト、辺境伯歌劇場)。この項、実際の上演については、その2で扱います。
念のために言えば、ヴァーグナーの建てた祝祭劇場ではなく、18世紀に建てられたバロック様式の歌劇場で、ヨーロッパでも貴重なものであり、今は世界遺産になっている。長らく修復中であったのだが、数年前に劇場として使えるようになった。プロイセンのフリードリヒ大王の姉がベルリンからこの地に嫁いで、バロック文化の粋をもたらしたと言われている。
そして去年からバイロイト・バロック・オペラ・フェスティバルが開始されたのだ。去年の9月は、周知のようにコロナ渦の真っ最中(それから1年経過しても終わったとは全く言えない長い厄介な渦である)で、ヨーロッパでも去年の3月にマドリッドで注目すべきバロック・オペラ Achille in Sciroの蘇演がある予定で、ゲネプロまでこぎつけていたのだが、本当に直前になって中止になってしまった。レアル劇場で上演されるはずで、フランチェスコ・コルセッリ(1705-1778)というイタリア生まれで30年間スペイン宮廷で働いた作曲家のオペラが、世界の超一流カウンターテナー、フランコ・ファジョーリとティム・ミードを迎えて蘇るはずだったのだ。上演するかしないかの情報は最後まで錯綜していた。公演は無観客でもいいからやってくれないか、それをテレビ中継なり、ストリーミングなり、DVD、それがダメならCDという形でわれわれにもアクセス出来る形にならないかと、バロック・オペラ・ファンはやきもきしていた。
日本から参加予定だった人も筆者の知人だけで複数いる。しかし残念ながら、ゲネプロはあった(と伝わっている)が、公演は一切中止になってしまった。DVDあるいはCD録音はしないのか、と期待したが、1年経過したが、今のところそういう情報は聞いていない。コルセッリという作曲家の実像が大きく浮かび上がる瞬間が、水泡に帰してしまったのである。なんとか、この企画自体が蘇ることを望みたい。
それが2020年3月で、バロック・オペラに限定しても、日本でもヘンデルの《シッラ》、《ジュリオ・チェーザレ》などの上演が中止になってしまったのだし、周知のようにスペイン、日本に限らず、世界中で演奏会、オペラ上演が中止に追い込まれていった。だから、昨年9月にこのバロック・オペラ・フェスティバル(この年に創立なのだが)が予定通りに行くのか、どうか、ずっとはらはらし通しだった。去年は夏に向けて感染が下火になるかに見えたときもあった(しかし、残念ながら、その後、大きな感染の波が何度もやってきたわけである)。そうした状況に一喜一憂しつつ、ホテルを予約することは出来たものの、そもそも出国できるかどうかが問題だった。日本政府の方針も状況により変化するし、勤務先の方針もそうで、再三、再四、掛け合ってみたが了解が得られず、また政府の方針も厳しいままだったので去年はバイロイト行きを断念した。
日本からヨーロッパに行くのは、ホテルとフライトさえ予約すれば、という時代が嘘のように激変してしまい、今もワクチン・パスポート(場合・地域によってPCR検査)や、同じく地域によって自主隔離が必要などという状況は今も続いているわけだ。2019年までの数十年の変化よりも大きな変化が生じたと言えよう。
そういう状況の中で2020年9月にバイロイト・バロック・オペラ・フェスティバルは創立、開催されたのである。主催者・関係者は、政府や州政府・市当局とどのような交渉をして、上演を可能にしたのか不思議に思うし、偉業とも言えよう。ただし、観客は相当制限したようである。というか予約をしていても日本やアメリカからはほとんど来れなかったと思う。ヨーロッパにすでに駐在・在住していた人は別であるが。その結果、切符は払い戻しも可能だが、来年度も同じ演目をやるのでヴァウチャー化も出来ることになった。
今年度の場合、最初からコロナ渦での上演が予想されていたわけで、販売数が最初から少なく切符の値段は前年の倍以上になった。今年の8月の中頃になって、バイエルン州での劇場の規制が一段階緩やかになったらしく、切符の追加発売があった。開催の直前だったので、それがどれくらい実際に売れたかは不明である。
今年の9月1日、つまり今年の幕開きの当公演も、事前登録というのが必要で、毎日、演奏・上演の1時間から4時間前に劇場のすぐそばの指定された場所に行って登録をする。登録というのは、そこに行き、グリーンパスとパスポート(IDカード)とチケットを見せると紙製のリストバンドをもらえるのである。そのリストバンドには日付が印刷されているので、翌日は使えない仕組みだ。
劇場に入ってみると、私の席は桟敷だったのだが、一列目は三席ある。その真ん中の席は大きなバツ印があって係員から座ってはいけないと言われた。桟敷の後列も明らかに二人用の椅子なのだが、一人しか座っていない。平土間を観ると、前の数列以外はガラガラである。座席としては一列に20名ほど座れるのではないかと思うのだが、数人しか座っていない。
長くなったので公演については、その2で。
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