テレマン作曲《音楽牧歌劇》その1
テレマン作曲の《Pastorelle en musique(音楽牧歌劇)》を観た(インスブルック、Haus der Musik, Grosser Saal).
音楽牧歌劇というと判りにくいが、要するに、短めのオペラである。そして登場人物がカリストとかアミンタとか牧歌(劇)によく出てくる人物なのだ。だから、オペラなのだが、素材は、寓意的な牧歌(劇)ということである。
別にはセレナータとも言われており、一夜の余興として企画されたのかもしれない。と思ってプログラムを読んでみると、これは実はフランクフルトでブルジョワのカップルが結婚する際に委嘱された作品であることがわかった。
あらすじは後に詳しく記すとして、大雑把に言えば、二組の男女の羊飼いと、間抜けなブッフォ役(バスではなくて、テノールですが)が1人、あとはその他大勢の羊飼いが登場人物。二組の男女のうち、女性2人は自由が大事!というモットーをかかげ、恋愛には見向きもしない、はずだったのだが、やがてイリスが恋愛に目覚め、最後にはカリストも恋愛に目覚め、二組はめでたく結ばれる、というお話。
結婚式を祝すための音楽劇である。
もう少し詳しくあらすじを紹介しよう。
羊飼いたちの谷に春がやってきた。羊飼いの一人ダモンは、ミュゼット(フランス式バグパイプ)という楽器にあわせて恋愛の素晴らしさを歌い上げる。他の羊飼いも愛を求めている。ダモンとアミンタ、クニルフィクスはお嫁さんさがしに出かける。
女羊飼いのカリストとイリスは恋愛より自由が何より大事、と考える。彼女らは大真面目である。自由がモットーという歌は長くて、他の女羊飼いたちも合唱で加わる。というわけで、ダモンがカリストに求愛するが、結果は望み薄。ダモンがフランス語のアリアを歌っても、カリストの心はとけない。(この後もダモンは何度かフランス語のアリア(air)を歌う。基本的にはドイツ語で、ところどころフランス語のアリアがはいるという形である。この点でマッテゾンのオペラ《ボリス・ゴドノフ》で基本はドイツ語、アリアのいくつかがイタリア語というのと似ている)
アミンタの求愛の顛末のほうがまだましだった。イリスに求愛して、平手打ちをくうのだが、やがてイリスの気持ちが愛情に変わっていく。アミンタはあえてそこから先には進まず、イリスは逆に混乱した気持ちを抱える。
そこへお調子者のクニルフィクスが登場し、恋愛って本当に宴会よりいいのかなあ?などと言って、女羊飼いをうかがうが、彼に好意を寄せる女羊飼いは見当たらない。クニルフィクスは、選り好みしていないで、ぱっと決めなよ、などと忠告?をはなつ。踊りのマスターが、手をかそうとするが(この場面、当日は、ヴァイオリン奏者の一人が演奏しながら踊るという見事な演技・演奏を披露した)、クニルフィクスは踊っても相手の足を踏んづけるありさま。
ダモンは絶望している。クニルフィクスが求愛の進み具合を尋ねるが、まともな返事はない。結婚は慎重にせねばとクニルフィクスは考える。
アミンタが戻ってくる。彼は自分の振る舞いに確信を持っている。一方、デーモンは悲しみに沈み、死にたいという(このあたりの音楽は、あまり悲しみに沈んだものではないのだが、これはテレマンの気質によるものとも言えるだろうし、結婚式という祝祭の性質を考えてあまりしんみりした音楽はふさわしくない、という配慮もあるだろう)。アミンタは、デーモンに自分を律することをすすめる。
その間、カリストは不思議な心の内の動揺を感じる。心が勝手にある方向に動き出したと感じるのだ。心の葛藤に疲れ、解決したいと思いつつ眠ってしまう。眠っている間にクーピド(愛の神キューピッド)が出てきて、笛を吹く。ダモンがはいってきてそこにカリストを見つける。最初はやさしげな子守歌を歌うが、カリストの眠りを破りかねない小鳥たちを追い払う。カリストは目覚め、ダモンがそばにいるのに気づくが、愛を得ることが絶望的なので死にたいという。
イリスとアミンタがやってきて、イリスはカリストに忠告し、自分はアミンタの求愛に応じ、とても幸せであると告げる。カリストはしばらくためらっているが、やがて同意する。ダモンの一途さに打たれたからだ。羊飼いたちが新しいカップルを祝福する歌を歌い、ダモンとカリストは二重唱を歌う。クニルフィクスのみが、一人のほうがいいやと言いつつ、最後の大団円のコーラスに加わる。めでたし、めでたし、である。
他愛もない話と言ってしまえばそれまでだが、そもそも結婚という祝祭の出し物(オペラは周知のように誕生の当初から、宮廷で演じられる際にはそういう祝祭の出し物であることが多かった)である。また、牧歌や牧歌劇にはヨーロッパには長い伝統がある。たとえば1690年に設立された最も有名なアカデミアである、Accademia dell'Arcadia は、古代ギリシアのアルカディアを理想郷として、その羊飼いたちの簡素で美しい歌に立ち返ることを理念として含んでいる。
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