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2021年8月29日 (日)

コンサート《Aus der Zeit》その2

《Aus der Zeit》その1の翌日に、演奏団体は同じだが別の演目のミニ・コンサートを聴いた。

今度は場所がLandhauskapelle というバロックの礼拝堂。Landhaus というと別荘という意味だが、

オーストリアがナチスに併合されていた時期に、この建物が拡充され、政府の出先機関が入っていたようである。

この礼拝堂は先日のイエズス会の教会よりはずっと小ぶりで、信者の座る席が6列しかないのだが、当日の聴衆は

13名ほどだったのでまったく密ではない。

この日も少し早めに行くと、練習を聴くことが出来た。入り口の真上、つまり祭壇と反対側の上方にパイプオルガンがある。先日の音楽監督だったMarian Polinがオルガンを弾きながら、仲間と演奏の細部について練習しながら話し合っている。

この日は歌手はおらず、バロック・ヴァイオリンのMarco Kerschbaumer, テオルボのAlessandro Baldessarini, ヴィオローネ(チェロ)のJoachim Pedarnigが共演者。

曲目構成は、プログラムによると、インスブルックの宮廷ヴァイオリニストだったパンドルフィ・メアッリ、宮廷音楽監督だったヴィヴィアーニ、ヴィーンのヴァイオリニスト、作曲家のシュメルツァーの名人芸的技巧を要するヴァイオリン曲(ハプスブルクのお家芸だったという)の間にフローベルガーの鍵盤楽器曲をはさんだもの。

最初が Giovanni Antonio Pandolfi Mealli (1624-1687)のSonata seconda 'La Cesta' (インスブルック、1660)

次はフローベルガーでJohonn Jacob Froberger (1616-1667) Toccata II FbWV102

Giovanni Buonaventura Viviani (1638-1692) Introduttione prima 

Johann Jacob Froberger,  Capriccio III FbWV503

最後が

Johann Heinrich Schmelzer (1623-1680)

Sonata VI (1664) 

である。

この礼拝堂は、礼拝堂としては小ぶりだが、オルガンがあり、天井はカマボコ型で、音が天井から降り注ぎ、かつ全体を包みこむ。こういう音は2チャンネルのステレオでは絶対に再現できないと思いつつ、音の渦に浸る。同じ古楽でもホールでの音と教会の音では、残響の長短がまったく違うし、大きい目の教会と小さい礼拝堂でもまた音によるつつまれ感は異なる。こういう環境で、祭壇にはバロックの後光のさした神や天使、そのややしたには大司教らしき人物が錫杖を持っている。そこで上から振ってくる音楽に包まれると、天上の音楽という感じがする。

以前に書いたが、東屋などではチェンバロ、チェロ、リコーダーに対し、ヴァイオリンの輝かしい音色は抜きん出たものがある(もちろん、それぞれの楽器に異なる音色の味わいがあることは言うまでもないが)が、オルガンが出てくると、ヴァイオリンとは比較にならない存在感がある。オルガンの低音は、周知のことではあるが、チェロともテオルボとも比較にならない迫力で単に音量が大きいのでなく、耳ではなく、体感する低音で、小さい礼拝堂などでは、びんびんと身体に響いてくるのだった。ロックなどのPCで電気的に増幅された音とは本質的に異なる。生音で空気感の低音。長らく教会での演奏で声楽とオルガンが特権的な地位にあったのもむべなるかな。

宗教絵画では in situ (元の場所)でないと、観る人と絵画の位置関係や、光のあたり具合など十全に作品を評価できないわけだが、初期バロックの多くの曲も、それがもともと演奏された環境(教会か宮殿か)に近いところで演奏されてこそ、本来の十全な魅力を発揮するのだと思った。

さらにミニ・コンサートではあるが、大変意欲的なプログラムであることはお分かりいただけよう。こういった初期バロックのものになると、古典派以降のコンサートとは聞き手の態度が変わってくるのを感じる。つまり、初期バロックは、作曲家も曲目も手垢にまみれておらず、こちらとしては Mealli の曲を聴く、Viviani の曲を聴くという態度であり、モーツァルトやベートーヴェンのように、過去の数々の演奏と眼前の演奏を比較してしまうということが生じない(生じにくい)。こういう態度に自然になっていくのも、インスブルック音楽祭の効用の一つかもしれない。

 

 

 

 

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