レア・デザンドレのリサイタル《アマゾネス》その1
メッゾ・ソプラノ歌手レア・デザンドレのリサイタル《アマゾネス》を聴いた(インスブルック、王宮リーゼンザール)。
写真では判りにくいかもしれないが、天井の高い(10メートルはあるだろう)、壁にはハプスブルク家の皇帝や各国に嫁いだ皇女の肖像画が等身大以上の大きさで描かれている。この部屋も長方形の形だが、長い辺の片側に舞台を設定し、そこにオケと歌手がいて、その三方を観客が囲む形である。バロック音楽をやるのに視覚的にはふさわしい豪華な空間なのだが、聴覚的にはかなり問題がある。反響がものすごく、残響時間が長い、長すぎるのである。ゆったりとしたテンポの曲は良いのだが、早いパッセージがくると、特に低音部は、前の音とかぶって塊となってしまい、音の輪郭がぼけてしまう。教会でオケが演奏する場合などにも起こりがちなことである、と言えばおわかりいただけるだろうか。
レア・デザンドレはつい最近に《アマゾネス》というCDを出した。当日のプログラムとすっかり同じかは確認できていないが、コンセプトは同じと考えてよいだろう。バロック・オペラから強い女性をえらび彼女らのアリアを歌っている。個人のリサイタルでは当然ながら、歌ばかりでは歌手の負担が大きすぎるので、ところどころシンフォニアなどの器楽曲が挿入されている。
レア・デザンドレの経歴を見ると、20歳でウィリアム・クリスティー・アカデミーに入り、すでにザルツブルク音楽祭にもデビューしている。共演した指揮者もミンコフスキーやクリスティーなどがいる。2018年に独演会で世界各地をまわり、欧米をはじめ上海には来ているのだが、日本には来ていない。彼女だけではなく、バロック音楽の団体・個人がアジアに来て、中国、韓国に来るのに日本に来ないことがあるということは、ままあると聞く。残念なことである。
この歌手は登場すると、思いのほか小柄でスリムである。バレエを15年やっていたということに納得がいく。声質としては、素直で透明感の高い声でメゾというが高いほうはどんどん出る感じで、逆に低い方は出てはいるがあまり響かない。
彼女は今までに3人の女性で一緒にCDを作るということは何回かしていたのだが、ソロアルバムは初めてのようだ。共演したオケは、CDと同じくアンサンブル・ジュピターという団体で、リュート奏者のトマス・ダンフォードによって2018年に結成された団体で、この日のメンバーは9人。ヴァイオリンが2人、ヴィオラ1人、チェロ1人、ヴィオラ・ダ・ガンバ1人、コントラバス1人、テオルボ1人、チャンバロ兼オルガン1人、打楽器1人である。リュート・テオルボ奏者がリーダーというのは比較的珍しいと思うが、実際に曲を弾いている時には、第一ヴァイオリン奏者は特にトマス・ダンフォードの方を見る様子はなく、第二ヴァイオリン奏者が第一奏者を見ながら弾いて合わせている。リュート奏者はむしろチェロ奏者と目を合わせながら、音を合わせていた。むろん、全体で9人であるし、互いが互いの音を聞きながら、という前提の上でだが。
プログラムは前半、休憩、後半に分かれる。
前半
Francesco Provenzale (1624-1704)
Aria 《Non posso far》(Lucillo), 第一幕5場(《Lo schiavo di sua moglie》ナポリ、1671より)
Francesco Cavalli (1602-1676)
Simfonia (Ercole amante, パリ、1662,より)
Francesco Provenzale
Aria 《Lasciatemi morir, stelle crudeli》(Menalippa)第一幕8場、(《Lo schiavo di sua moglie》より)
Giovannni Buonaventura Viviani (1638-1692)
Aria 《Muove il pie' furia d'averno》(Mitilene) 第三幕19場( Mitilene, regina delle Amazzoni, ナポリ、1681)
Georg Caspar Schurmann (1672/73-1751)
Sinfonia pour la tempete (Die getreue Alceste, ハンブルク、1719)
Carlo Pallavicino (1630-1688) /Nicolaus Adam Strungt (1640-1700)
Aria 《Vieni, corri》(Antiope) 第三幕最終場 と 《Sdegni,fuori barbari》(Celinda) 第三幕15場(L'Antiope, ドレスデン、1689)
Anne Danican Philidor (1681-1728)
Marche, Re'cit & Air 《Venez, troupe guerriere...Combattons courrons a' la gloire》(Thalestris), Marche (La Mascerade des Amazones, マーリ、1700)
Marin Marais (1656-1728)
L'Americaine (Premier Suitte d'un gout etranger, パリ、1717)
Andre' Cardinal Destouches
Air 《O Mort! O triste Mort》(Thalestris)、第三幕5場 (Marthesie, premiere reine des Amazones より)
Marin Marais
Plainte en sol mineur
Andre Cardinal Destouches
Air 《Quel coups me reservait la colere celeste》(Marthesie), 第五幕5場(Marthesie, premiere reine des Amazones より)
ここで休憩。前半はおおまかに言えば前半がイタリアもので後半がフランスものであった。ゆったりとしたテンポと駆け抜けるテンポ、軽快な曲想のものと変化をつけたプログラムである。
続きはその2で。
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