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2021年8月28日 (土)

テレマン作曲《音楽牧歌劇》その4

当公演のプログラムには、解説のほかに、指揮者ドロテー・オベルリンガーと演出家ニルス・ニーマンの対談が掲載されている。インスブルック音楽祭のプログラムは、判型は新書が横広になった程度で、値段も3ユーロ程度であるが、中身はとても充実している(ちなみに昼のコンサートなどの1枚のペラのプログラムは無料で配布している)。作品解説、解釈、そして演奏家は白黒ながら写真がついて簡単な略歴が紹介されている。

思えば、レパートリー作品の上演の場合、新しいことを言う、書くのはそう簡単ではないだろう。インスブルックのように、蘇演やそれに近い手垢にまみれていない作品の上演の場合、あらすじを初めとして観客に伝えるべきことは山ほどあるわけだ。とは言え、その山ほどある情報を通り一辺なレベルでなく、本格的な関心を持つ人にも有益な情報が詰まっている場合が多い。

さて、オベルリンガーとニーマンの対話であるが、多少、解説と内容はかぶっているがご了承を願いたい。オベルリンガー:テレマンがこのオペラをフランクフルトの市民のために書いたことはわかっているが、どういう人だったか具体的には判っていない。当時のQuantz という人が、テレマンは各国のスタイルをマスターした人だと言っている。フランス風もイタリア風もマスターしている。フランスオペラから眠りの場面(これはリュリのアティスというオペラが初めだったとのこと)を取り入れ、さらには民衆的要素もある。ニーマン:究極のところ、牧歌劇は羊とはあまり関係がなくて、アルカディアという理想郷の話。働かなくてよくて、愛に没頭できる。羊飼いだというのは、自由であることを表現していて、いろいろな拘束から自由である。オベルリンガー:スコアは非常に計画的に書かれていて、多様な楽器を用いている。ホルン、トランペット、オーボエ、リコーダー、弦楽器。通奏低音もファゴット、チェロ、コントラバス、ティンパニーその他の打楽器。これだけ揃えるのにはお金がかかっただろうから、注文主はお金持ちだったろう。レチタティーボも非常に綿密に書かれている。テレマンは良い声のバリトンだったので、こういうセミ・プライヴェートな演奏、注文を受けて注文主をよく知っている場合、自らダモンを歌った可能性もある。この時代にはそういうことは珍しいことではなかった。同時代のマッテゾンは、言葉と音とジェスチャーが完全なハーモニーをなしていなければならないと言っている。

演奏について

オケはオベルリンガーが2002年にケルンで設立したアンサンブル1700.演奏水準は高い。

カリストは Lydia Teuscher. イリスはMarie Lys でバロックものには彼女の方が一日の長があったが、二人とも、若手オペラの歌手と較べると

一皮も二皮もむけ、歌も演技もしっかりしている。二人とも、一番肝心の、心が変わる場面の演技、歌が出色で、そういうところでのオケの合わせ方も実にはまっていて、完成度が高かった。ダモンはFlorian Gotz. アミンタはAlois Muhlbacher. 彼はカウンターテナーであるが、ところどころアジリタの部分でテンポが遅れてしまいがちなところがあった。クニルフィクスのVirgil Hartinger ははまり役で、演技といい、声の表情といい、コミカルな味を完璧に表現していた。

テレマンの残存する最初のオペラがこれだという。心から楽しめるオペラであるし、音楽的にも充実し聞きがい、観がいのあるオペラであった。他のオペラもぜひ聴いてみたいものだ。

 

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