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2021年3月 8日 (月)

チマローザ作曲『悩める劇場支配人』

チマローザ作曲の『悩める劇場支配人』を観た(新国立劇場、中劇場)。

新国立劇場オペラ研修所の修了公演である。日本初演とのこと。会場では、まず氏名、連絡先、座席を書いたカードを提出させられるー無論、新型コロナ対策である。中劇場の入り口で体温検査(非接触型)をし、切符の半券は自分で切る。ロビーでの飲食は禁止。開演前にも、ブラボーなどの応援はやめるようにとのアナウンスがはいり、思わず苦笑。これらの対策、やむを得ないことばかりと認識しつつ、久しぶりの劇場だっただけに、何気なく行っていた劇場に入るときの習わしの変化に感慨をおぼえた。

 プログラムで永井和子研修所長も指摘しておられるように、このオペラ、いろいろなヴァージョンがある。You tube や Spotify で予習してみたのだが、違う上演、違うCDを聴くと、このアリア前のCDには無かったな、とか、あれ、こんな序曲だったっけ、という具合になる。チマローザのこのオペラは大変ヒットして、ナポリで初演された後、次々にイタリア各地、ヨーロッパ各地で上演されたのだが、上演されるたびにアリアが加わったり、さらにはウィーン上演の際には、初演で一幕仕立てだったものが二幕ものに変貌をとげているのだ。

 同じくプログラムで本屋麻子氏が、チマローザに関しては山田高誌の論文があることを紹介している。山田氏は、チマローザ作品の批評校訂版(クリティカル・エディション)の委員会のメンバーであり、『悩める劇場支配人』の批評校訂版の序には、山田氏によってナポリにはレチタティーヴォ専門の作曲家がいたことが明らかになったと記されている。

 今回の上演は見事なものであった。日本のオケが縦の線がピシっと揃うことにあらためて感心し、弦の音程もしっかりしているので和音が美しく響く。そうすると、チマローザがモーツァルトと同時代人であったことが想起され、納得がいくのである。ちなみにこの作品は1786年ナポリで初演された。1786年といえば、モーツァルトは『劇場支配人』、『フィガロの結婚』を初演した年である。

 チマローザとモーツァルトを比較すると、チマローザの方が音が密でない。シンプルでこちらに慣れてくると、モーツァルトは音が多いと感じた当時の人の気持ちもわからないではない。

 物語は、3人の女性歌手がわれこそはプリマドンナと主張するのに劇場支配人が翻弄され、作曲家は、一人の(フィオルディスピーナ)とは元彼、元カノの関係で、もう一人の歌手メルリーナと恋仲である、といった具合。劇場支配人クリソーボロは、上演にこぎつけるためにはと、どの歌手にも口当たりのよい返事しかしないが、金回りは危機に瀕しているようだ。といった具合の、楽屋落ちというかメタシアターというか、オペラをめぐるオペラである。もちろん、これも1つのジャンルで、ヴィヴァルディと同時代人のベネデット・マルチェッロの『当世流行劇場』以来、モーツァルトの『劇場支配人』のちにはドニゼッティの『劇場の都合不都合』などがある。

 こうしたブッファなオペラ、ファルサであることは一目瞭然なのだが、今回の上演ではどちらかと言えば、品よくアンサンブルをまとめあげる方向に注力がされていて、ドタバタ的にもりあがるところで、多少アンサンブルが崩れてももっとテンポをあげてという方向には踏み込まず安全運転であった。もちろん、テンポがやや遅めでも、ブッフォな味わいを聴かせているところもあり、おおいに楽しめた。

 一人だけあげれば、作曲家ジェリンドを演じたテノール増田貴寛の歌唱と演技には、ユーモラスな味と歌いまわしのセンスを感じた。他の歌手も練習行き届いているとおぼしく、4重唱、5重唱のところもアンサンブルが乱れることなく充実した音楽を堪能できた。女性陣のドレス姿はエレガントで麗しかったが、プログラムでお顔を再認識するのがやさしくない。つまり、女性の方が一般的にいえばしっかりメイクをするので(誤解はないと思うが、それがよろしくないなどというつもりは毛頭ありません)出来ればプログラムかネット上の上演紹介のページで舞台姿をアップしていただけるとありがたいと思う。今回に限ったことではないのだが、あの歌手良かったと思って、お名前を確認しようとして戸惑うことがあるのです。役柄が書いてあるのだが、役柄自体、初演やこちらが見慣れないものだと覚えにくい。あの丸々色のドレスを着ていた人の歌唱が良かったと思ってもプログラムを見るとどの方だったか、たぶんこの人だと思うけど間違っていたら失礼だし。。。ということもある。読者諸賢はそのような経験はないだろうか。記憶力の乏しい者からのささやかなお願いです。

 

 

 

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