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2021年2月 7日 (日)

佐藤亮著『北アイルランドを目撃する』

佐藤亮著『北アイルランドを目撃する』(水声社、3000円)を読んだ。

北アイルランドの町には、ミューラルという家の外壁全面を使って描かれた壁画をみかける。そしてその絵は、芸術的というよりは、政治的な内容・主張を含んだものであることがほとんどと言ってよいだろう。私もベルファーストに行って一週間ほど過ごしたおりに、住んでいる地区がここはカトリック地区、ここはプロテスタント地区と分かれており、地区によってユニオンジャックが運動会かお祭りの時のように通りの上をたすき掛けに沢山はためいているか、そうでないかがはっきりしているのを見て驚いたことがあるし、地区によって描かれているミューラルの内容はまったく党派的に峻別されていた。北アイルランドは、領土的にはイギリスなのだが、アイルランド共和国と地続きであり、カトリック系の住民(4割以上いる)は、自分がイギリス人であるよりは、アイルランド人であると考えている人も少なくない。

 この地の入りくんだ宗教的、民族的、政治的な状況には、もちろん歴史的背景がある。著者は、ミューラルの内容をおおまかに歴史順にたどって、オレンジ公ウィリアム(オラニエ公ウィレム)やルイ14世から、ジャコバイト、クロムウェルといったところから20世紀、21世紀に到るまでをたどっているが、本の構成が面白い。左右見開きで1つのまとまりで、右はミューラルのカラー写真で左がその解説となっている。だから1つ1つの項目はコンパクトなのだが、写真を見ながら読み進めると飽きない。

 著者は、英文学者なので、20世紀の所では、シェイマス・ヒーニーの詩を引用して、そこにどういう紛争の背景があるのか、またその状況が今はどう変わりつつあるかを、噛んで含めるように説明してくれる。英語のフレーズを具体的に引用して、英和辞典を引いてもわからない意味合いを解き明かしてくれる。

 ミューラルが消されて白壁になり、次の絵が描かれるまでの間を during  というなどとは、ミューラルおよび北アイルランドとの付き合いの深い著者ならではの解説か。ここには21世紀にミューラルの内容・主題がどう変わりつつあるかもしっかり報告されている。

 ヨーロッパを読み解くには、何と言っても宗教・宗派およびその対立や宥和の歴史を知ることが肝要だと管理人は痛感しているが、北アイルランドの現在および歴史にはそういった要素が凝縮していると思う。そしてそういった風土から、なぜか優れた詩人を輩出している。

 

 

 

 

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