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2021年2月22日 (月)

『どこか、安心できる場所でー新しいイタリアの文学』

イタリア短編小説集『どこか、安心できる場所で』(関口英子、橋本勝雄、アンドレア・ラオス編)を読んだ。大変、面白かった。

未読の作家ばかりだったのだが、それもそのはず、編者の方針で2000年以降に発表され、実力はあるが、日本に紹介されていない作家を集めたのだ。男女もほぼ半々で、バックグラウンドも、例えば両親がソマリア出身だったり、ドイツ生まれで両親はポーランド系ユダヤ人だったり、ナタリア・ギンズブルクの孫であったり、シチリア生まれで現在はロンドンに在住だったりと、多様性に富んでいる。長さも10ページほどのものから40ページくらいのものまで、いろいろ。

両親が破綻寸前である男の子が夏キャンプ場に行って、管理人に父の代わりを求めるのだが。。。と言った物語もあれば、元麻薬中毒で、姉にも見捨てられた女性に突然訪れる高齢の男が。。。という物語もあるし、ファトゥとヴァレリオというミックス(異人種)カップルをめぐる物語もある。

読み進めるにつれて、ああ、これはイタリア映画祭の経験に似ていると思った。5月の連休に催される映画祭も、新作紹介で一人一作で次々に違う監督の映画を見ていく。しかも日本では有名な監督のものは比較的少なく、新しい監督との出会いがある。1作1作は、まったく別々のテーマを扱っているのだが、毎年10数本観ていると、なんとなくただ今現在のイタリアを生きるイタリアの人々の息づかいが感じられる。

こういう短編集も、出来れば毎年、あるいは1年おきか2年おきに出し続けてはもらえないものだろうか。

作家も13人紹介されているが、訳者も6人いて、なかなか贅沢な味わいの本である。

 

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2021年2月 8日 (月)

鹿島茂著『太陽王ルイ14世ーヴェルサイユの発明者』

鹿島茂著『太陽王ルイ14世ーヴェルサイユの発明者』(角川書店)を読んだ。

鹿島氏の本らしく、ルイ14世をめぐる女性関係への目配りはぬかりない。寵愛を受けることになった女性が、どういう経緯でルイに巡りあい愛されるに至ったか。愛妾の中には看守の娘から成り上がった女性もいる。ルイ14世の父も、ルイの弟もゲイであったことも明かされる。

こういった男女および同性の愛憎関係だけでなく、フロンドの乱の叙述の際には、法服貴族というものが帯剣貴族とどう異なるかが、西洋史への知識がなくてもよく分かるように説明される。つまり法服貴族は、官位を金で買うのは当たり前で、後には王がそれを制度化した。ポーレット法と呼ばれる官職売買の法律が1604年に出来ているのだ。だからルイが即位した当時の官僚というのは、言葉は同じでも今日の官僚制度というのはまったく異なっており、いわば相撲部屋の親方のようなものだったと鹿島氏は述べている。「株仲間」の一種で、だからその官職は息子やあるいは持参金として婿に引き継がされることが出来たのである。

 ルイ13世が死んでルイ14世(ちなみに生きている間はルイ・ドゥ・フランスとか呼ばれないことも、システマティックな説明がある)は幼子であり、13世の王妃とマザランが政治的実権を握り改革をしようとしたところから、法服貴族の既得権益を大きく削ることになるのでフロンドの乱が起こった。フロンドの乱が起こってからの人間模様は詳細に描かれる。フロンドの乱だけで数十ページがさかれている。が、読み進めると、鹿島氏が主張するように、この何年にも渡る乱の際に命の危険にさらされる経験をしたことと、ルイが親政開始と時を同じくしてヴェルサイユ宮殿建設に着手することには深い関係があることが理解できる。

 また、フランスの中で北部は均等相続で南部は長子相続(貴族であっても次男、三男は、司祭になったり、軍人になって職を得る必要がある)といったことと、そういう貴族の次男、三男をどう政治体制に組み込んでいったかも明らかにされる。

 非常に生々しい人間関係(重用されていた重臣が、ふとしたきっかけで失脚する、あるいは寵妃が愛を失う)から、政治、外交、ヴェルサイユ宮殿建設の長いプロセスまでが、口語的な語り口で書かれている。宮殿をいくつ見ても宮廷生活というものはなかなかイメージできなかったが、この本を読んでおぼろげながらではあるが、以前と比べればずっと具体的にイメージできるようになった。フランスでも、ルイ14世の長い治世の間に宮廷は大きく変わるのであるから、他の国、他の時代はまた異なっていたであろうことは推して知るべしではあるのだが。ともかく、1つの基準点が出来たことに感謝。

 412ページの本なので、上に紹介したのはほんの一部であり、リュリやヴェルサイユ宮殿お披露目の時の祝宴・余興も詳しく描かれているし、何よりヴェルサイユ宮殿庭園の噴水をはじめとして宮殿の装飾、部屋の名前をはじめとしてすべて(究極的には王をたたえる)寓意を持っていることも詳しく紹介されている。平明な書き方で、かつ、実に楽しく面白かった。ピューリタンな道徳観をお持ちの方には、けしからん人物ばかり出てくるのでおすすめ出来ませんが。

 

 

 

 

 

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2021年2月 7日 (日)

佐藤亮著『北アイルランドを目撃する』

佐藤亮著『北アイルランドを目撃する』(水声社、3000円)を読んだ。

北アイルランドの町には、ミューラルという家の外壁全面を使って描かれた壁画をみかける。そしてその絵は、芸術的というよりは、政治的な内容・主張を含んだものであることがほとんどと言ってよいだろう。私もベルファーストに行って一週間ほど過ごしたおりに、住んでいる地区がここはカトリック地区、ここはプロテスタント地区と分かれており、地区によってユニオンジャックが運動会かお祭りの時のように通りの上をたすき掛けに沢山はためいているか、そうでないかがはっきりしているのを見て驚いたことがあるし、地区によって描かれているミューラルの内容はまったく党派的に峻別されていた。北アイルランドは、領土的にはイギリスなのだが、アイルランド共和国と地続きであり、カトリック系の住民(4割以上いる)は、自分がイギリス人であるよりは、アイルランド人であると考えている人も少なくない。

 この地の入りくんだ宗教的、民族的、政治的な状況には、もちろん歴史的背景がある。著者は、ミューラルの内容をおおまかに歴史順にたどって、オレンジ公ウィリアム(オラニエ公ウィレム)やルイ14世から、ジャコバイト、クロムウェルといったところから20世紀、21世紀に到るまでをたどっているが、本の構成が面白い。左右見開きで1つのまとまりで、右はミューラルのカラー写真で左がその解説となっている。だから1つ1つの項目はコンパクトなのだが、写真を見ながら読み進めると飽きない。

 著者は、英文学者なので、20世紀の所では、シェイマス・ヒーニーの詩を引用して、そこにどういう紛争の背景があるのか、またその状況が今はどう変わりつつあるかを、噛んで含めるように説明してくれる。英語のフレーズを具体的に引用して、英和辞典を引いてもわからない意味合いを解き明かしてくれる。

 ミューラルが消されて白壁になり、次の絵が描かれるまでの間を during  というなどとは、ミューラルおよび北アイルランドとの付き合いの深い著者ならではの解説か。ここには21世紀にミューラルの内容・主題がどう変わりつつあるかもしっかり報告されている。

 ヨーロッパを読み解くには、何と言っても宗教・宗派およびその対立や宥和の歴史を知ることが肝要だと管理人は痛感しているが、北アイルランドの現在および歴史にはそういった要素が凝縮していると思う。そしてそういった風土から、なぜか優れた詩人を輩出している。

 

 

 

 

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