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2021年1月 5日 (火)

ヴィンチのオペラ《ポーランド王ジスモンド》その3

ヴィンチはなぜ18年前にヴェネツィアで上演されたオペラのリブレットを再利用することにしたのだろうか?

ヴィンチが上演するのは、ローマの Teatro delle Dame という劇場である。わざわざヴェネツィアで18年前に上演されたオペラのリブレットを再利用した理由として考えられるのは、ボリス・ケアマンによれば 1.ヴィンチが変わったことをして観衆を驚かせるのが好きだったこと 2.1年前にナポリで上演した《エルネリンダ》でノルウェーを取り上げたこと。つまり、神々や古代地中海世界だけでなく、ヨーロッパのアルプスの向こうを取り上げて新たな主題を開拓したこと。3.しかし何と言っても大きいのは、この作品のリブレットに大書されている献辞から明らかなように、この作品は James 3世(イタリア語ではGiacomo III) に献呈されていることと関連している。James 3世というのは、イギリスの名誉革命で追放された James 2世の子供で、イギリス王James 3世であることを主張し、その主張は、フランスやスペインやローマ教皇などヨーロッパの主要国から認められていた。当時のイギリスにはハノーヴァ王朝のジョージ1世がドイツから迎えられ、ついでジョージ2世がその後を継いだわけである。

さらには、James 3世の妻は、ポーランド王の孫娘だった。というわけで、このオペラを見る人々には、前項で記述したあらすじの登場人物が現実の人物と重ね合わせて見える仕組みになっている。すなわち、王ジスモンドがJames 3世で、反抗的なプリミスラオがハノーヴァ(ハノーファ)家である。

18世紀前半のオペラでは、初演時に誰にリブレットが献呈されたか、どういう政治情勢の中で産出されたかも、重要な要素の1つであると筆者は考えている。

 

 

 

 

 

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