岩崎周一著『ハプスブルク帝国』
岩崎周一著『ハプスブルク帝国』(講談社新書)。新書だが、442ページあり、やや厚い。
このところハプスブルク本を何冊か読んでいるが、これは歴史学寄りの歴史書である。以前に読んだものは、物語的な歴史書であった。周知の通り、歴史はイタリア語の場合極めて明確になるが、storia であり物語も storia である。僕としては、物語寄りの歴史も読みたいし、歴史学の見地が反映された学術的な歴史書も読んで見たい。個人的には、物語的な歴史で、その時代、その地域の幾人かの人物にこんな人というイメージを持てるようになってから、歴史学の学術的な記述と向き合いたい。でないと、〇〇3世とか言っても、自分にとってはそれは記号に過ぎず、その人についての叙述もピンと来ないからだ。
本書は、新書とはいえ、従来の学説ではこうであったが、近年はこういう説も唱えられている、ということが丁寧に記述されていて、ハプスブルク帝国についての言説の変化もうかがえるようになっているのはありがたい。こうした厚みを持った上で、政治や経済のことを説明され、さらには文化的なことに言及されると文化を単独に捉えている時よりずっと立体的に、社会の中の文化、宮廷の中での文化活動の位置付けといったものが見えてくる気がする。
この本で初めて知ったことはあまりに多く、情報量の点でも十分であったし、さらにという場合には和洋の参考文献がたっぷりと紹介されているのも親切だ。
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