『ピランデッロ 秘密の素顔』
フェデリーコ・ヴィットーレ・ナルデッリ著、斎藤泰弘訳『ピランデッロ 秘密の素顔』(水声社)を読んだ。
実に面白かった。ピランデッロの伝記である。伝記といっても、死後書かれたものではなくて、生前に、ナルデッリがピランデッロに毎日インタビューをして書いたものだ。ナルデッリもピランデッロもパリにいた。ナルデッリは直前にダンヌンツィオの伝記を書いたのだが、詩人の逆鱗に触れ、祖国を逃げ出さざるを得ない羽目に陥ったのだ。当然、定職もない。というわけで(経過は省略)、ピランデッロに毎日あって伝記を書くことになった。ナルデッリも自分でも書いているが、劇作家の言うなりに書くのではなく、ピランデッロの伝記上の事件が、彼の小説なり劇作のどこに反映されているか、引用されているかを文学探偵よろしく嗅ぎつけてくる。
評者が驚いたのは、ピランデッロの父方も母方も、リソルジメントに積極的に参画しており、母方の叔父はガリバルディの副官だったことだ。父も負けずに大胆な人で、マフィアのボスを叩きのめして撃たれただけでなく、4度も銃撃されている。
ピランデッロの妻がピランデッロの父が経営する硫黄鉱山の失敗で持参金を失い、精神を病んでしまったのはよく知られた話かもしれないが、そもそもその前に婚約者がいたのは知らなかった。
一々は記さないが、ピランデッロの奇癖とも言うべき変わった行動も、抜群に面白い。個性的な人は、大真面目にヘンテコリンなことをやってしまうものなのだ。ピランデッロの作品の不条理とも見える世界は、作者のいわゆるリアルな生活と地続きなのだった。
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