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2019年12月31日 (火)

ブッツァーティ『怪物』

ブッツァーティ著、長野徹訳『怪物』(東宣出版)を読んだ。

短編集で18の短編が収められている。原著では1942年から1966年にわたる複数の短編集から訳者が編んだもの。訳者が編んだブッツァーティ短編集としては3冊目である。

ブッツァーティは、日刊紙コッリエーレ・デッラ・セーラの記者を勤めており、それが彼の文体とも深い関係を持つと言われている。すなわち、不条理な状況を描き出す時にも、日常的な平易な語彙を用いて淡々とその異常な事態を描出していくのである。時折、挟まれる情景描写はスケッチ風でありながらシャープな叙情性を持つ。また、比喩表現を重ねていく際も、一見かけ離れたものに喩えながら透明な詩情が生まれている。

1篇の長さは10ページちょっとだから、本格的な展開は望むべくもないのだが、ブッツァーティ独特の不条理なストーリーを堪能することができる。短いのでどこででも、いつでも、ちょっとした時間の隙間に別世界に飛べる醍醐味がある。

 

 

 

 

 

 

 

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2019年12月29日 (日)

『レオナルド・ダ・ヴィンチーミラノ宮廷のエンターテイナー』

斎藤泰弘著『レオナルド・ダ・ヴィンチーミラノ宮廷のエンターテイナー』(集英社新書)を読んだ。

本書はレオナルド・ダ・ヴィンチのミラノ時代について、レオナルドの多角的な活動を生き生きと描き出している。レオナルドだけでなく、レオナルドが活躍したロドヴィコ・イル・モーロの宮廷、その人間関係、権力構造をきわめて具体的に語る。ルドヴィーコの甥とその結婚、ルドヴィーコ自身の結婚、ロドヴィーコの庶子の結婚、そうした際のスペクタクルにレオナルドが卓抜なアイデアを出して関わったことが語られる。

中でもルドヴィーコの甥でミラノ公ジャン・ガレアッツォの結婚の際のスペクタクル『天国の祭典』(1490年)は詩人ベッリンチョーニによる脚本と、この祝祭劇を観たフェラーラの大使の報告書が残っているので細部まで分かるのだ。この劇、そして台詞の細部まで実力者ロドヴィーコの意向を汲んだものであることがよく分かる。宮廷で書かれる詩も、演じられるスペクタクルも基本的にはプロパガンダ的要素を濃厚に持っているのである。

評者は、オペラが生まれる前の宮廷でのスペクタルの一端をうかがい知ることができて非常に面白かった。

さらに、本書ではレオナルドの手稿から彼の人生観を探っているが、彼が宮廷人に出したと思われる謎々も複数紹介している。謎々が特徴的で、彼の世界観や宗教観を反映していると思われるのだ。

口絵にはカラーで『ビアンカ・セヴェリーノの肖像』(別名『美しき姫君』)や『白貂を抱く貴婦人』が掲載されているが、ビアンカはロドヴィーコとベルナルディーナ・コラーディスの娘であるし、後者の貴婦人はロドヴィーコの愛人チェチリア・ガレラーニである。この白貂はロドヴィーコ自身を表しているというのだがその理由も本書では解き明かされている。

 最後の晩餐についての論述も興味深い。聖書の記述の意味を時代に沿って解釈すれば、15世紀の画家たちが描いたようにテーブルがあって着席しているのではなく、横臥して食事をしていたらしいのだ。そう言われてみれば、古代ローマやエトルリア人は横たわって食事をしていたと聞いたことがあった。

レオナルドの幅広い才能が宮廷でどう生かされていたのかが納得いく本であった。

 

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