プーランク『人間の声』とメノッティ『電話』
プーランクのオペラ『人間の声』とメノッティのオペラ『電話』を観た(新宿・ガルバホール)。
ガルバホールというのは初体験だったが、小ホール(観客は70から80人くらいだと思う)で、室内の装飾はアールヌーヴォ風で独特の雰囲気を持っている。この日の演奏はピアノ伴奏によるものだったが、ここのホールのピアノはベーゼンドルファーとのこと。
周知のように、2つのオペラはどちらも1幕ものの短いオペラで、プーランクは女性歌手が1人で歌い、メノッティは男女1人ずつだが、ほとんど女性歌手が歌い、男性は合いの手や二重唱をかなでる。そしてどちらも電話がもう一人の登場人物といってもいいくらい重要な役割を果たしている。
プーランクは悲劇で、5年間付き合った男と別れた女性が、その男と最後の電話をしているという設定で、台本はコクトー。もともとコクトーの書いた芝居だったものをプーランクが初演の歌手と協力して少しセリフをカットしてオペラ化したらしい。その女性を演じ、歌ったのは加藤早紀(敬称略、以下同様)、ピアノ伴奏は高瀨さおり。この芝居は、設定からして暗い話ではあるのだが、ところどころコミカルば場面がある。つまり、当時(初演は1959年)の電話は電話交換手がいたし、混線して無関係の人とつながることもあったのだ。だから男と話している最中に全然関係ないマダムとつながったり、男との電話が切れたりまたつながったりする。コクトーはそういった当時の電話の特性をいかして一人芝居を飽きさせないように、また、暗いばかりの話ではなくしている。フランス語での原語上演だったが加藤の発音は明晰で、コクトーらしい短い文章が連なっていくのが心地よかった。無論、必要に応じて情感もたっぷりに演じ歌われた。こういう小ぶりなホールでは音声は響きわたるので、歌手が音量を上げることに注力する要素がへって声の表情に注力できるのでとても贅沢に豊かな音楽経験ができる。
メノッティのオペラ『電話』はコメディだ。ベンという男がルーシーという女に今日こそはプロポーズしようと決意しているのだが、切り出そうとするたびに電話がかかってきて、ルーシーは電話に夢中という話。女性は別府美沙子、男性は野村光洋、ピアノは高瀨さおり。こちらは原作は英語なのだが日本語上演。別府の歌唱は発声もしっかりしているが、日本語がくっきりと聞き取れる。だからコミカルな場面で笑える。会場も何度も笑いにつつまれた。さらに別府は顔の表情がキマるのが素晴らしい。歌唱、演技に様式的な美が生まれる。それが風習喜劇風な台本とマッチするのだ。ついでに言えば、台本は作曲家のメノッティによるものなのだが、見事なものだ。女性が電話に夢中な様子、なかなか電話をきれない様子をうまく捉えカリカチャライズしている。電話優先のルーシーに歯噛みするベンを演じる野村も見事なサポート。彼は両作品の冒頭で作品紹介もしていたが簡潔でわかりやすく、大いに鑑賞者の助けになっていた。ピアノ伴奏も、不条理な感じやとぼけた感じ、プーランク、メノッティの曲想を十全に表現し歌唱をサポートしていた。
プーランクも一時間たらずで、メノッティは30分弱だが、堪能した。オペラは長ければよいというものではない。
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