北村暁夫著『イタリア史10講』
北村暁夫著『イタリア史10講』(岩波新書、900円)を読んだ。
イタリア史は近年、通史や近現代史をまとめたものや現代史を扱ったものが中公新書や岩波新書、ミネルヴァ書房や明石書店から出版されており、以前と較べるとイタリアに興味を抱いた人が歴史を知ろうとした場合に適している本が増えてきたと思う。
本書は、新書で286ページという相対的にはコンパクトな器に、古代ローマから2010年代前半までを盛り込んだイタリアの通史である。
特徴としては、筆者が述べているように、イタリアが置かれた地理的な位置を考慮に入れ、「ヨーロッパ・地中海世界の歴史の一部として、イタリアの歴史を見る」点がある。イタリアという近代国家が成立したのは1861年になってからのことなので、イタリアの各地域の歴史をバランスよく叙述するということにも目配りがなされている。
美術や音楽に関心を持ってイタリアに接した場合には、例えばルネサンス期に対する知識と中世に対する知識・情報量が著しく偏ってしまうことがある。テレビや雑誌で扱われる特集なども同様だ。
この本は自分の中にある偏りに気づかせてくれるし、扱われることがまれな時代にも、それぞれに興味深い問題、課題があったのだということを教えてくれる。
エトルスキ(トスカナに古代住んでいた人々)のルーツは謎とされていたのだが、近年の研究ではイタリアで様々な集団が混交して形成されたという説が有力だというーー知らなかった!シチリアにムスリムが稲やサトウキビ、ピスタチオおよび灌漑技術をもたらしたことなども書かれており、狭義の政治・経済に話が限定されているのではない。思いのほか充実しているのは、カトリック教会に関する叙述である。これはイタリア史において、あるいは現在のイタリアを理解する上でもカトリック教会の役割がいかに大きいかを示すものであると言えよう。
巻末には参考文献もあり(ただし章ごとではないのだが)、さらに詳しく知りたいと思えば次に読むべき本をたぐっていくことが出来る。
著者の専門のゆえか、近現代がより叙述が詳しいのだが、それは現代からの時間的距離の差のゆえに現代に近いほうが相対的に詳しく、古代は長い時代をコンパクトにまとめるのは当然といえば当然のことだろう。新書で古代から現代までを一人で書くというのはなかなか大胆なことだと思うが、読み進めた実感として中身は大変充実しているし、自分が詳しくないところ、無知なところは大いに参考になった。
| 固定リンク
コメント