ロベルタ・マメリのマスタークラス(2)
マメリのマスタークラスの続きです。
カッチーニの'Dolcissima sospiri'では現代化された楽譜のエディションを歌い手が使っていたのだが、全音符の上に時々〔tr〕と書かれている。普通に解釈すれば、ここはトリルなんだな、ということになるが、マメリによると、これはトリルと書いてあるが実はメリスマである。
トリルとメリスマは何が違うか。
トリルの場合、全音符が書かれた最初からドレドレドレドレと言った感じで音を規則的に動かす、しかしメリスマの場合、ド〜〜レドレドレと言った感じで、最初の音はある程度伸ばしてから(何拍分という規則的なものではない)音を動かす。しかも、メリスマの場合は、歌詞に合わせて(歌詞の内容に合わせて)情感をこめて音を振るわせるので、場合によってはテンポを揺らして良いのだ。この時代の曲では、歌詞が音楽より優先なので、あくまで音楽は歌詞にあわせてつけられている、ということもマメリは強調していた。これはモンテヴェルディの時も同じである。
モンテヴェルディは歌劇オルフェオから'Signor, quel infelice' と’Voglio di vita uscir' が歌われた。マメリは、モンテヴェルディはfuturista (ここでは、未来を先取りした人、ぐらいの意味か)だから、ここはスイングするのよ、とリズム、テンポの揺れ(言葉の意味に応じてだが)を積極的に推奨していた。
A.ノターリの'Ahi, che s'accresce in me'を歌う人もいた。
マメリのアドバイスで興味深かったのは、自分がいきなり音(声)を出すのではなく、もう自分の後ろから音は鳴っていてそれに乗せて声を出すような感じで歌い始めよ、というもの。歌い始めのところで、たいていの歌い手は緊張して体の一部がかたくなってしまうので、もうすでに鳴っているという意識を持って歌い始めよ、ということらしい。
母音に関しては、ウの音の注意があった。日本語のウよりもくっきりと唇を突き出して固めてウと発音するわけである。
最後に彼女は受講生の健闘をたたえた上で、やろうと欲することが出来るにつながると言い、彼女は歌手を志したのが23歳と遅く、歌手になったのは30歳だったという。彼女の先生は彼女の進むべき道を示してはくれなかったから自分で探すしかなかったとのこと。古楽を志した人の苦難であろうか。
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