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2018年11月10日 (土)

日本音楽学会

日本音楽学会に行った(桐朋学園大学、調布)。

日本音楽学会に入会し、初めてその大会に参加してみた。まず驚いたのは、発表数の多さ。2日間に渡って4部屋で午前午後とある。4教室で同時並行だから60以上の発表・報告があるわけだ。僕が知っている学会でこの規模は日本英文学会くらいのものだ。
中身であるが、議論の緻密さ、精密さに驚いた。一々発表者のお名前をあげるのは差し控えるが、たとえばピアノのハンマーヘッドに使われていたフェルトおよび皮がどのように変化していったか、通説と、実際の調査で判明したこと、楽器修復家への調査で判ったことが写真つきのプレゼンテーションで示される。あるいは、また別の発表では、中世の音名がどのように確定していったかを、写本と写本の端の書き込みをたどりながら跡づける。さらに別の報告では、ケルンのフランコ『計量音楽技法』(13世紀に出現した、後世への影響大な本)の写本6つをとりあげたが、1つは個人蔵でアクセス不可能だったことや、先行研究の誤りなども明るく指摘された。
中世の発表があると思えば、ヴァーグナーの《神々の黄昏》についての発表もある。これは初演楽譜が消失してしまったという通説に挑むもので、実はバイエルン宮廷歌劇場のパート譜がそれだというものだ。その証明は、コピスト(作曲家の楽譜をコピーし、そこからさらにパート譜を作る人)の筆跡を丁寧にたどることで成り立っている。このコピストの同定によっての証明は、モーツァルトについての報告でも見られた。シェイクスピア学で印刷工の癖を論じたりするのと同様の議論である。
午後はモーツァルトのト短調交響曲(K550)の第四楽章の特異性を論じるもの、ハイドンの交響曲における変奏反復について論じるもの、モーツァルトのクラヴィーア協奏曲(ピアノ協奏曲)K.175プラス382の史料伝承ーこれにコピストの問題が出てくる、シューベルトの交響曲のスケルツォ、メヌエット楽章がじょじょにソナタ形式に近づいていく様を論じたものを聴いた。いずれも、緻密かつ実証的なエビデンスに基づいた議論で、圧倒される思いがした。ほとんどの報告者がレジュメに参考文献をあげてくれており、さっそく何冊か自分に関わりのありそうな本を注文した。
これ以外にも興味を掻き立てられる報告はあったのだが、4つの発表が同時並行なので仕方がない。しかし8つの充実した発表を聞くと頭はパンパンになるのだった。

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