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2018年8月27日 (月)

《スペードの女王》

チャイコフスキーのオペラ《スペードの女王》を観た(ザルツブルク祝祭大劇場)。

この作品の原作はプーシキンの短編で、それをもとにチャイコフスキーの弟モデストがリブレットを書いた。ウィキペディアによると、チャイコフスキーは作曲しながら、リブレットに自らも随分手を入れたようだ。また、最終場のヘルマンのアリアにも調性の異なる2つの版を用意したという。
主人公のヘルマン(ゲルマン)を歌ったのはブランドン・ジョヴァノヴィッチだが、強靭な声(喉)の持ち主で、3幕(7場)の間、ほぼ出づっぱりなのだが、常に伸びやかに表情豊かな声を聞かせる。
ストーリーも音楽も、遅れてきたロマン派という感じで、マリス・ヤンソンス指揮のヴィーン・フィルだと鳴りすぎるくらいよく鳴るのであった。もっともそれは僕の席が右手の壁際のボックス(と言ってもほとんど天井がない)のようなところで、平土間より高い位置にあってオケの音がダイレクトにやってくる座席であったことも影響はしているだろう。それを考慮に入れてもやはり、チャイコフスキーも、プッチーニと同様、メロディーがヴァイオリンでくっきり奏でられるなどオーケストレーションが厚塗りの油絵という感じで響きが濃く分厚いのも確かだ。
ストーリーはロマンティックな人の病理が盛りだくさんに出てくる。主人公ヘルマン(ゲルマン)は平民なのだが、貴族の令嬢リーザに憧れている。しかしリーザにはエレツキーという婚約者がいる。リーサの祖母はその昔パリで多くの男に言い寄られた美女であったのだがカードで絶対に勝てる秘密を知っているという。ヘルマンはリサを口説きその関係から祖母と二人きりになる機会を得て、カードに勝つ秘密を得ようとするが、祖母は沈黙を守ったまま息をひきとる。リーザはヘルマンに心を寄せるが、究極のところヘルマンはカードの秘密が大事なのだとわかり絶望する(のち自殺)。ヘルマンはカードで全財産をかけ2枚目までは成功するが3枚目で失敗、リサの祖母の復讐なのだと悟り、死を選ぶ。
リーザのエフゲニア・ムラヴェヴァはフレッシュな声。エレツキーには「貴方を愛します」というこのオペラで最も魅力的なメロディを持ったアリアがあり、イゴル・ゴロバテンコが素直に聞かせていた。
ヤンソンスの指揮は手慣れた音楽を無駄な動きなくまとめているという印象であったが、会場からは大きな拍手を浴びていた。

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