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2018年8月17日 (金)

ロッシーニのグラン・シェーナ

ロッシーニのグラン・シェーナについての講演を聞いた(ペーザロ)。

講演者はアンドレア・マルナーティという若い研究者で、ディ・セータ教授のもとで、このテーマで博士論文を書き、最近それをもとに著書 La Gran Scena nell'opera italiana (1790-1840) を出した。タイトルからわかるように、Gran Scena (グラン・シェーナ)というものが、いかにこの時期にイタリア・オペラで盛んに用いられ、ついで次第にあまり用いられなくなったかということで130以上の実例 を調べたという。
グラン・シェーナという言葉には2つの用法があって、うんとつづめて言えば彼はアリアの1つの特殊な形態をグラン・シェーナと呼んでいる。この形式を用いたのはロッシーニだけではなく、ドニゼッティやその師マイール、メルカダンテなど同時代の何十人もの人が用いているのだが、この日のレクチャー(洒落てConversazioneと題されているのだが、内容は極めて高度)では、ロッシーニの《タンクレディ》の’Dove sono io? (私はどこにいるのだ?)’を例にとって、説明がなされた。通常のアリアならレチタティーヴォがあってアリアとなるものが多いわけだが、グラン・シェーナの場合、長めのオケによるプレリュードがあり、シェーナがある(1)。カヴァティーナ(短めの歌)がある(2)ここでアリアに行かずにレチタティーヴォや合唱によって一種の中断・介入がある(3)そうしてアリアに入る(しかもこのタンクレディの例の場合、アリアの部分がさらに3部構成となる大掛かりなもの(4)。こうした4つの要素からなるひと続きの楽曲(拡大アリアとでも言えようか)をグラン・シェーナと呼んでいるわけだ。むろん、これには上記の4つの要素が少しずつ異なるヴァリエーションが存在する。
マルナーティの調査によれば、グラン・シェーナは圧倒的にオペラ・セリアで用いられており、
彼の調査した130以上の実例の中で、セミセリエが13、オペラ・コミコはわずか4例に過ぎない。
また、やや話が専門的になるが、この4つの要素が入れ替わるところでは韻律も変化する。つまりそれまで1行が11音節詩行だったものが、7音節や別の音節の詩行になったりするので音楽の表情だけでなく、リブレット上も変化がはっきりと生じているわけだ。ここからは筆者の感想。この言わば拡大アリアはアリアの表情がのっぺりと単調になってしまうことが避けられるのだと思う。しかしながら、変化の中に統率力がなければ、曲がバラバラになってしまう危険性もあるわけで、ここが作曲家の腕の見せ所と言えよう。
以前にも書いたことがあるが、ロッシーニ・オペラ・フェスティバルは、オペラ上演をする興行という面を持っているが、それと同時に車の両輪のようにロッシーニに関する学術的研究が並行して行われて、生かされて、聴衆に還元されているところに大きな特色がある。上演も、必ず最新のクリティカル・エディション(批評校訂版)に基づいて演奏されている。ペーザロにあるロッシーニ財団がロッシーニのスコアの校訂版、リブレットの校訂版、書簡集、さらに年報(論文集)を出版して、世界のロッシーニ研究の推進力になっているわけである。
(訂正)
マルナーティ氏の著書は8月17日現在まだ購入することはできません。講演の際に本が示された(見本ずりの段階だったのかもしれません)ので勘違いしてしまいました。失礼しました。なおいつ、入手可能になるのかは、ロッシーニ財団の人の話では未定とのことです。

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