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2018年4月11日 (水)

『ベルルスコーニの時代』

村上信一郎著『ベルルスコーニの時代ー崩れゆくイタリア政治』(岩波新書)を読んだ。

274ページの新書であるが、非常に情報がきめ細かく読み応えがある。しかも、村上氏の書くものは他のものでもそうなのだが、政治学の専門家、イタリア政治の専門家でない者にはわからない可能性の高い言葉、人名には懇切丁寧な説明がついているので、いちいち辞書やインターネットで引く必要がない。それどころか、ややむずかしい漢字にはルビ(よみがな)が振ってあり、一般の大学生などにもとっつきやすいものとなっている。個人的には、漢字がやたらと平仮名に変わってしまうのには抵抗があり、最近の文庫、新書は少しずつ活字が大きくなっているので、ルビを振るのはとても良い考えだと思う。
肝心の中身であるが、第一章ではベルルスコーニがどう成り上がっていったかが事細かく描かれる。最初は不動産業者として、次にはテレビ業界の覇者として。
次の第2章が僕としては一番読み甲斐があった。ここで扱われるのは、ベルルスコーニだけでなくイタリア政界全体を巻き込んだP2と呼ばれるフリーメーソンの関わる事件なのだが、P2はイタリアの新聞などで現在でも言及されることが多いわりには、全体像を把握・理解することがとてもむづかしいのだ。今回、村上氏の痒いところに手がとどく懇切丁寧な叙述のおかげで自分の理解が大いに進んだ。P2というのはフリーメーソンの会所(ロッジャ)の1つなのだが、イタリアの政界・軍の重要人物が多く集まった極めて特殊な会所で、そこを舞台に、というかそこで出来た人脈を用いて、さまざまな陰謀や資金洗浄などの犯罪が企てられたのである。フリーメーソンの一般論をのぞいても、P2の話は出てこないので、これを理解するのはむずかしいのだ。また、このP2の人脈拡張のキーパーソンであったリーチョ・ジェッリ(なんとも鵺のような人物で面白い人物ではある)のバックグラウンドの説明も明快でかつ詳しい。
一般的なイタリア現代史といった類の本では1つのトピックをここまで掘り下げるのは叙述のバランスの点でむずかしいが、本書はベルルスコーニに焦点をあてているので、このようなことが可能になっているし、このP2と軍、警察やヴァチカン、そしてマフィアがどう関わっているのか複雑怪奇な関係がようやく飲み込めた気がする。
第3章のベルルスコーニが政界に進出することになった理由・背景も面白い。テレビ業界の経営がギリギリの所に追い詰められて打開策をもとめて政界に打って出たというのが村上氏の説明であり、説得力に富む。ベルルスコーニはイタリアの新聞でも、良くも悪くもベルルスコーニ中心に賛成・反対勢力が勝ったり負けたりしながらイタリア政界が20年を過ごしたと言われている。日本で言えば田中角栄が思い浮かぶだろうか。
第4章以下は、プローディらのオリーブの木とベルルスコーニ勢力との戦いの模様であるが、これもあらましは知っていたが、この本で新たに断片的な知識がこうつながっていたのか、という箇所がいくつもあった。イタリア政治を相当丁寧にフォローしていないと、個々の情報が断片でとどまり、情報どうしの連関が見えてこない場合が多いのだが、本書はそこの連関を見せてくれるのがありがたい。
ベルルスコーニに対して、イタリアの知識人がどういう反対の立場をとってか、どのような言葉・批判をしているかも丁寧に取り上げられている。
この本を読むと、イタリアの政治が腐っていて、崩壊していると思うかもしれないが、日本の政治、アメリカの政治、イギリスの政治等々がそんなに立派なものなのか?いやいや出鱈目なところがある、というのはNHKのBSニュースを見ているだけでもわかる。ベルルスコーニに関してきわめて特異と思われるのは彼がイタリアの主要民放をすべて間接的に所有して影響力を行使しているという点だ。ここまでのメディア王が首相になった国は例をしらない。
本書はイタリアおよびイタリアの歴史に関心のある人なら紐解いてみる価値があると思う。

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