《セメレ》
ヘンデルのオペラ『セメレ』を観た(カールスルーエ)。
ヘンデルのオペラはほとんどがイタリア語台本で、オラトリオは英語台本なのだが、この作品は例外的に英語台本のオペラである。ストーリーはオウィディウスの『変身物語』に基づいており、コングリーヴによる英語台本。
神々の長でありながら浮気者のジュビターと人間の女性セメレをめぐる話。セメレはアタマスと結婚直前なのだが、ジュピターに心惹かれていて、結婚式は雷も落ちて中断となる。実はセメレの妹イーノはアタマスに心を寄せている。
ジュピターの妻ジュノーはお冠でセメレの居所を突き止め、さらにジュピターと人間の姿でなく神として交わるようそそのかす。そんなことをしたらセメレは死んでしまうのだ。このエピソードはジュノーの侍女イリスも含め、コミカルな場面がたくさんある。
最後はとってつけたように, Happy, happy の大合唱なのだが、ジュピターはさっそく別の女性に目をつけているというオチ。
ヘンデルであるから、英語であろうと、巧みに様々な曲想のアリアを次から次へと繰り出し飽きることはない。指揮はクリストファー・モウルズ。地味で手堅い音楽作り。
演出はフローリス・ヴィッサー。パンテオンを小さくしたような建物を真っ二つにしたものが舞台上にあって、そこの中とドアから外に出てドラマが展開する。室内は、場面によって結婚式場であったり、セメレが隠れ住んでいる場所になったりする。建物全体が回転することによって場面転換する仕掛けになっていた。
ジュピターはアメリカ大統領になぞらえられていて、記者会見もあるし、モニター画面でCIAのマークが出てきたりする。
ストーリーがもともとそれほど感情移入して涙するという話ではないので、いかに演出して笑わせるかに演出の眼目があると思われる。DVDではバルトリ主演のものがあるが、ジュノーとイリスとソムヌスのやり取りが最も笑いを取るところだ。ソムヌスに仕事をさせるため彼の憧れの女性で釣るのだが、バルトリ版ではイリスがその女性に化けるのに対し、今回の演出では写真や画像を見せるうちに、本物のその女性が登場するという仕掛けになっていて楽しめた。
セメレはAnna Devin, ジュピターはRandall Bills, アタマスはTerry Wey, ジュノーはKatherine Tier, イーノは予定が変更になりZilara Bastar, イリスはHannah Bradbury, カドムスはKs Edward Gauntt, ソムヌスはYang Xu, キューピッドはIlken Alba. セメレのアンナ・デヴィンは
バランスのとれた優れた歌唱を聴かせた。他の歌手も粒が揃っていたと言えよう。
ヘンデル音楽祭の方針なのか、DVDやCDでカットされている曲、バレエの場面も入っていた。
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