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2018年1月21日 (日)

333HBS 記念シンポジウム

「333HBS 記念シンポジウム」に行ってきた。6人のスピーカーがいたのだが、どなたのものも大変興味深く、得るところの多い充実したシンポジウムであった(飯田橋、ナチュラック)。

1時半からの開始よりやや早く着いたのだが、会場は満員に近い。
そうそう、HBSというのは、ヘンデル、バッハ、スカルラッティの略で、今年2018年は彼らの生誕333年に当たるのです。3人とも1785年生まれ。
まずは金澤正剛氏の基調講演。格調高くしかし堅苦しくない調子で、年表を見ながら、3人のキャラクターの違いを解説。結論だけ言えば、J.S.バッハはルター教会の音楽家であり、ヘンデルはあらゆる分野で活躍し、単なる作曲家というよりプロモーターを兼ねていた。ドメニコ・スカルラッティは鍵盤曲が名高いがオペラやオラトリオも書いている。バッハとスカルラッティは生前は演奏家として名高かった。
福島康晴氏は、スカルラッティの「10声のスターバト・マーテル」をとりあげて、曲による拍子の変化および全体の構成、各曲の調性または和音(調性というほどはっきりしないが、どういう和音で終わるか)を説明したうえで、スターバト・マーテルの歌詞と音楽フィグールの解説をしてくれた。たとえば Catabasisという音楽フィグールは下降を強調する旋律の形象。「涙して(lacrimosa)」というところに、ソーファミレーソという下降するフレーズが次々と声部を変えて
歌われる。それはちょうど涙がいくすじも流れ落ちる様と照応しているというわけである。なるほど、なるほどであった。
山田高誌氏は、「ドメーニコ・スカルラッティのもう一つの顔」。まず、スカルラッティの受容が他の2人と異なり、人々から忘却された時期がなかったこと、これまでの出版楽譜や研究の概要を示し、メタスタージオ台本の世俗カンタータをとりあげた。この中にはpene を苦しみとペニスの二重の意味、そしてあるフレーズの繰り返しの後に跳躍があるところは愛の頂点を示しているのではないか、という解釈を示した。福島氏のいうフィグールの世俗版ということになろうか。
渡邊順生氏はタンゲンテンフリューゲルという楽器をとりあげた。これは、チェンバロからピアノへの過渡期の楽器で、ハンマーが木でその木の部分にフェルトなどがつかずに露出したまま弦をたたく。模型も持ってきてくれたのであとで実際に触ってというかキーをたたいて弦をたたくシステムが実感できてよかった。報告は、このタンゲンテンフリューゲルをバッハが知っていた可能性がある、というものであった。上野学園は1803年頃製造されたタンゲンテンフリューゲルを所蔵しており、渡邊氏がこれを弾いた「チェンバロとピアノの狭間で」というCDがある。J.S.バッハ、C.P.E.バッハ、ハイドン、モーツァルトの曲が録音されている。実際、独特の音色である。
三ヶ尻正は「新しいヘンデル像:政治・外交と音楽ビジネス」。三ヶ尻氏は、ヘンデル協会でのレクチャーやヘンデル協会が上演するヘンデルのオペラのパンフレットでもこれまで主張されておられるように、ヘンデルのオペラは、音楽ビジネスであると同時に、政治的なメッセージを含んだものであることが多い、場合によっては政治的なプロパガンダであるということだ。一番わかりやすい例は、ヘンデルがいた時代、ジョージ1世はドイツのハノーヴァからやってきたわけだが、ステュアート朝の子孫でわれこそは正当な王と称する人たちがいた(僭王)。ヘンデルは王党派のオペラも書くし、僭王側に立ったオペラ(追放された王や騎士がなんらかの形で戻ってくる)も書く。これはヘンデルは広告代理店のような役回りを演じているというのが三ヶ尻氏の主張である。話が大掛かりであるから、テクストの細部を論じる場合と異なり、どの時点で証明が完了するのかの判断は聞き手にとっても難しいわけだが、論点としてはきわめて有意義かつ興味深いものだと思う。作品の中身や細部も重要であることは言うまでもないが、オペラを誰がどうプロデュースしているのか、誰がパトロンになっているかも同様に重要なことは明らかだ。
加藤拓未氏は「歴史の中でとらえるバッハの受難曲」。今回始めて知ったのだが、同時代のテレマンは受難曲を53曲も作曲しているのである。また受難曲は大掛かりな曲なので、都市によって演奏回数が全然違う。当時はハンブルクが栄えていて、受難曲の演奏回数も断然多く、バッハのいたライプツィヒとは大きく異る。こういった事情をバッハの息子エマヌエルがテレマンの孫にあてた手紙の読解から説きすすめるもので大いに蒙をひらかれた。
全体として、大変充実したシンポジウムであったが、これからもヘンデル・バッハ・スカルラッティ生誕333年記念祭の行事は、多くの演奏会(レクチャー付きのものもある)などがある。

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