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2017年3月31日 (金)

『ダ・ヴィンチ絵画の謎』

齊藤泰弘著『ダ・ヴィンチ絵画の謎』(中公新書、1000円)を読んだ。

ダ・ヴィンチ絵画の謎と言えば、モナリザは誰か、なぜ微笑んでいるのか、というのはこの絵を見た人のほとんどが抱く思いであろうし、私のような全くの素人でも、モナリザのモデルと言われている女性にはいろんな候補がいる、ということは昔から知っていたし、周知のことと言って良いだろう。
本書では、著者自身の研究と最近の様々な学者の研究によって明らかになってきたことを、ある時には著者が他社の研究に同意しつつ、ある時は対比的に紹介して、読者も自分なりの考えを持つことを促す書物である(と思う)。
レオナルドの母は異国出身の女奴隷だったのではないか、その可能性がかなりある、というのは衝撃的な話であった。当時のフィレンツェでは異国出身の女奴隷が有力な家庭では働いており、主人の子を生むこともあったと言った当時の状況が解説される。
本書では、素人の問いに著者が答えるという形をとっている部分がかなりあって、その答えは著者の独断ではなく、レオナルドが残した手稿から相当する部分が抜き出されるという仕組みになっており、叙述が一方通行に陥っていない。
モナリザのモデル問題に行く前に、とても丁寧にレオナルドの自然観が検討される。その時代に支配的だった考えとレオナルドのそれがどう違うか。レオナルドは、昔は地球を全て水が覆っていて海だったが、土地が隆起して陸地になったと考えていた。また、やがてはこの世界の破滅の日が来るとも考えていた。この自然観は図解入りで詳述される。それを踏まえて読み進めて行くとモナリザの背景の右側と左側の風景の様相の違いの理由が解き明かされた時に腑に落ちるのである。
モナリザ及びジョコンダ夫人が同じなのか違うのか、またそのモデルは誰なのかについては、先行する諸説、最近の研究で明らかになったこと、そして著者の説が詳しく解説される。
著者は潔く自分はこう考えるとはっきり言明する人である。他人の説を並列してあとは読者の判断に任せるという態度は取らない。だからこそ、読者は、著者と自分の考えを付き合わせて考えることを求められていると言えよう。考えるための材料は惜しみなく与えられ、なおかつ新書だがカラー版で絵画も鮮明、拡大した細部なども掲載されており、叙述の理解に大いに役立つ。

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