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2017年1月23日 (月)

《ヴェルディのプリマ・ドンナたち》

小畑恒夫著《ヴェルディのプリマ・ドンナたち》(水曜社、3200円)を読んでいる。小畑氏はすでにヴェルディの伝記も書いておられるし、訳書で《評伝ヴェルディ》もあり、また、日本ヴェルディ協会の会報には、もう何年にもわたってヴェルディの手紙を紹介する論考を執筆中である。

今回の《ヴェルディのプリマ・ドンナたち》は、ある意味では、ヴェルディのオペラ全作品の解説集なのだ。改作ものは別として、全26作品が時代順に1章ずつ紹介されている。各作品の紹介は3つのパートからなっている。
1.ヒロインからみたあらすじ紹介。通常のあらすじ紹介とちょっと視点をずらして、厳密にではないが、概ね女主人公の立場からのあらすじになっている。
2.第二のパートでは、作品の背景や原作や、ポイントとなるアリア、二重唱が歌詞つきで紹介される。歌詞は通常のアリアの紹介では冒頭の一行ということが多いが、この本では、6行とか8行とか時には10行以上に渡って日本語訳の歌詞(つまりはリブレットの一部)が数カ所引用され、その見所、聴きどころが、ドラマの展開上の役割と音楽的にどんなことが生じているかが、明快に説明される。
 例えば、《イル・トロヴァトーレ》のレオノーラの「これを信じるべきなの?信じてもいいの。(中略)。。。あなたは天国から下りていらっしゃったの?それとも私が天国のあなたのそばにいるの?」に対し、「レオノーラの口からはひと言ずつ確かめるように言葉が漏れ、やがてそれは躍動するフレーズになり、ついには最後の2行で大きな跳躍をを伴う力づよいメロディへ発展する。レオノーラのこの歌から始まる5重唱は、形式としては『大きな驚きの後に来る静止した重唱」の系譜を引くが。。。」といった具合である。
3。第三のパートは、初演の時ヒロインのパートを歌った(創唱した)女性歌手についてだ。彼女がどんな履歴を持っているのか、ヴェルディとどういう関わりがあり、ヴェルディはその歌手のどんな特質を評価していたのか、などなど。
3つのパートから作品を立体的に捉えることが出来る構成となっているが、作品の勘どころの解説は音楽とストーリー展開がどう絡むのかを実に的確に教えてくれる。
ちなみにヴェルディのオペラ全作品の解説本は、永竹由幸氏によるものと、高崎保男氏によるものがある。ヴェルディの演奏を様々な歌手、様々な指揮者で楽しむのと同様に、ヴェルディのオペラを3者3様の解説で楽しむことをおすすめしたい。
 
 

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